気象学研究室セミナー

2024年度 2023年度 2022年度 2021年度 2020年度 2019年度 2018年度 2017年度

2024年度 第185回~
第208回 機械学習を用いた降水のダウンスケーリング(金子 竜也)
近年、各地で集中豪雨による水災害が度々発生している。降水分布を高精度、高解像度で予測することの重要性が増している。 高解像度化には、多くの計算コストがかかるといった問題があり、様々な手法が考えられてきた。本研究では、機械学習を用いた画像処理技術の手法を用いて、降水予測の高解像度を試みた。機械学習は、一度学習さえしてしまえば、高解像度化処理の計算コストを抑えられるという特徴がある。
第207回 エアロゾル輸送モデルと気象雷モデルの結合モデルを用いたエアロゾルが雷に与える影響評価(山田 雄斗)
エアロゾルは雲凝結核や氷晶核としてはたらくことで、雲の微物理特性を変化させ、雲の発達の仕方、降水量、ひいては雷に影響をもたらす可能性があるとされている。これはエアロゾルの量が変動すると、雲の微物理特性が変化し、雲粒の衝突の起こりやすさが変わり、結果として電荷分離の起こりやすさが変化するためである。エアロゾルの生成消滅、雲、雷の 3 つを陽に計算するために理化学研究所で開発されている気象モデル SCALE の改良が進んでいるが、その検証は不十分である。 本発表では、エアロゾルの輸送の観点からの検証として 2020 年の⻑野県における計算結果を示し、エアロゾル輸送モデルと気象雷モデル結合させた実験結果を紹介する。
第206回 気象衛星ひまわりを用いた霧の微物理特性の解析(小長井 佑馬)
気候予測にはモデル構造に依存した不確実性があり、マルチモデル実験により見積もることが重要である。CMIP5ではマルチモデル全球実験が行われ全球スケールにおけるモデル不確実性が評価された。しかし、領域スケールでは高解像度化にかかる計算コストの高さからマルチモデル実験が実行されていない。そこで我々は低計算コストのダウンスケーリング手法「スーパーサンプリングダウンスケーリング」を開発した。本手法は、大規模な力学的ダウンスケーリングデータセットであるd4PDFからのサンプリングとして、マルチモデル領域データを表現することで計算コストを削減する。今回の発表では、手法の紹介と夏季九州降水への適用結果の紹介を行う。
第205回 スーパーサンプリングダウンスケーリングの開発と夏季九州降水への適用(大西 肇)
霧は大気中の水蒸気が凝結して水滴となり、地表付近の空中を漂う現象であるがその微物理特性について、広領域かつ長期間にわたり調べた先行研究は少ない。本研究では気象衛星ひまわりのデータと雲の微物理特性を解析する衛星解析アルゴリズムを用いて日本で観測される霧の微物理特性を研究することを目的とする。今回の発表では、過去9年間の夏季における釧路および三陸沿岸で発生した霧を解析した結果を紹介する。
第204回 シラカバ花粉飛散の実態調査(山根 斗和)
北海道ではシラカバが春季花粉症の主な原因であり、花粉症の重症化の抑制には、花粉の曝露回避が最も基本的な方法である。現状の花粉飛散予測は統計的手法によって行われており、曝露回避に十分な解像度は提供できていない。飛散予測には数値モデルを使用する必要があるが、花粉の放出フラックスには未解明なパラメータが存在する。本研究では、飛散予測に必要な基礎情報をシラカバ花粉の簡易捕集観測によって得ることが目的である。本発表では今春行った観測について述べる。
第203回 可搬型ドップラー降雨観測器の開発(坂口 竜太)
RGBヘキサグラムを用いた孤立積乱雲の混相域における雲微物理特性解析 要旨:液相粒子と固相粒子が共存する混相域では、雲粒捕捉成長や着氷電荷分離など特徴的な物理過程が存在する。混相域内の雲微物理特性の解析には、液相粒子と固相粒子の共存を表現できる気象モデルが有効である。しかし、気象モデルを用いた解析では、混相域内の雲微物理特性の解析は限定的なものしか行われてきていない。そこで本研究では、RGBヘキサグラムという液水・霰・雪の最大3種類の混合を各変数をRGBのそれぞれの値と見なすことで、色という1変数で情報量を損なわず平面上に表現できる解析手法を開発した。そして、このRGBヘキサグラムを孤立積乱雲の理想化実験に対して適用し、混相域毎の雲微物理特性の解析を行った。
第202回 RGBヘキサグラムを用いた孤立積乱雲の混相域における雲微物理特性解析(近藤 誠)
洪水の予測にあたって集水域における高解像な降水分布の把握が重要である。現在降雨観測は主に雨量計と気象レーダーによって行われているが、それぞれの観測には弱点が存在し、高解像かつ高精度に降水量分布を推定できているとはいえない。そこで本研究は従来の測器より安価な測器を使用し、高解像かつ高精度に降水量分布を取得することを目的としている。本発表では、今夏に行った屋外定点観測の結果を中心に紹介する。
第201回 可搬型ドップラー降雨観測器の開発(坂口 竜太)
洪水の予測にあたって集水域における高解像な降水分布の把握が重要である。主に雨量計と気象レーダーによって降雨観測が行われているが、それぞれの観測には弱点が存在し、高解像かつ高精度に降水量分布を推定できているとはいえない。そこで本研究は従来の測器より安価な測器であるドップラー降雨観測器を使用して既存の降雨観測の課題を解決することを目的としている。本発表では、この測器を使用してこれまでに行ってきた屋外定点観測や室内実験の結果を紹介する。
第200回 エアロゾル輸送モデルと気象雷モデルを結合させた数値モデルを用いたエアロゾルが雷に与える影響評価(山田 雄斗)
エアロゾルは雲凝結核や氷晶核としてはたらくことで、雲の微物理特性を変化させ、雲の発 達、降水量、ひいては雷に影響をもたらす可能性があることが指摘されている。これはエア ロゾルの量が変動すると、雲の微物理特性(粒径)が変化し、雲粒の衝突の起こりやすさが 変化し、電荷分離の起こりやすさが変化するためであると考えられている。このエアロゾル が雷に与える影響を評価するために、エアロゾルの生成・消滅、雲、雷の 3 つを陽に計算す るために理化学研究所で開発されている気象モデル SCALE の改良が進んでいるが、その 検証は不十分である。本発表では、エアロゾルの輸送の観点からの検証として 2020 年の⻑ 野県における計算結果を示し、エアロゾル輸送モデルと気象雷モデル結合させた数値モデ ルによる実験の初期的な結果を紹介する。
第199回 北海道の吹雪強度に対する気候変動の影響評価(菅原 邦泰)
本研究では、大規模アンサンブル気候予測データベースd4PDFを用いて、気候変動が吹雪強度に及ぼす影響を、確率密度関数の裾野にあたる極端現象を含めて評価した。北海道内の数地点を対象として、風速、気温、降雪量から1時間あたりの吹雪量を推定した。d4PDFの現在気候実験では、観測値に基づく吹雪量の確率分布を概ね再現した。全球2度昇温実験では、時間平均視程が50m未満となるような激しい吹雪イベントの発生頻度が現在気候と比べて減少する可能性が示された。特に、太平洋沿岸の地点での減少が最も顕著であり、この減少には厳冬期(12~2月)における積雪期間の短縮が寄与することが示唆された。
第198回 気象モデルSCALEの雷モデルへのマルチグリッド法の実装(淺井 颯馬)
SCALEは,理化学研究所を中心に開発されている気象・気候ライブラリで,様々な物理スキームから構成されている.近年,雲の水物質がもつ電荷を予報し,雷頻度を計算する雷モデルが実装された(Sato et al. 2019)が,その計算コストの高さが問題となっている(Tomioka et al. 2023).これは,雷モデル内で電場の計算を行うためにPoisson方程式の求解を行っており,大規模な連立方程式を解いていることが一つの要因である.SCALEではこの連立方程式を高速に求解するために,逆行列ソルバのひとつである対称ガウスザイデル前処理付Bi-CGSTAB(SGS-Bi-CGSTAB)がデフォルトのソルバとして用いられている(山下 2018).SGS-Bi-CGSTABは,格子幅と同じ長さの波長を持つ誤差は数反復で減衰させることができるが,それよりも波長の大きい低周波の誤差は減衰させづらいという特徴を持つため,収束条件を満たすまでに反復回数がかかり計算コストが高くなるという問題をもっている.そこで,本研究では,異なる粗さの格子で問題を解くことで各波長の誤差を一様に減衰させることが可能で,反復回数の問題サイズに対する依存が小さいとされるマルチグリッド法(MG法)を実装することで雷モデルの高速化を試みた.
第197回 気象衛星ひまわりを用いた霧の微物理特性の解析(小長井 佑馬)
霧は大気中の水蒸気が凝結して水滴となり、地表付近の空中を漂う現象であるがその微物理特性について、広領域かつ長期間を対象として調べた先行研究は少ない。本研究では気象衛星ひまわりのデータと雲の微物理特性を解析する衛星解析アルゴリズムを用いて日本各地で観測される霧の微物理特性を研究することを目的とする。本発表では、2015年~2023年の6,7,8月に釧路と三陸沿岸で発生した霧を解析した結果を紹介する。
第196回 スーパーサンプリングダウンスケーリングの開発と夏季九州降水、冬季北海道降雪への適用(大西 肇)
気候予測にはモデルに依存した不確実性があり、マルチモデル実験により見積もることが重要である。CMIP5で全球実験における不確実性が評価されたが、領域実験では計算コストの高さから実行されていない。そこで、我々は低計算コストのダウンスケーリング手法「スーパーサンプリングダウンスケーリング」を開発した。本手法は大規模な力学的ダウンスケーリングデータセットd4PDFからのサンプリングでCMIP5の領域データを表現することで計算コストを削減した。本発表では、本手法の紹介と夏季九州降水、冬季北海道降雪への適用結果の紹介を行う。
第195回 人機一体気象モデリングに向けて(澤田 洋平・東京大学)
気象モデルは、実際に起こっている(であろう)物理現象を素過程に分解し一つ一つ方程式を立てていくプロセス駆動型モデリングにより構築された、100年以上にわたる気象学者たちの努力の結晶である。一方で近年ではニューラルネットワークなどの汎用的なモデルのパラメータをデータから機械学習することで現象をモデリングするデータ駆動型モデリングが気象予測の分野で隆盛をなしてきた。説明可能性・現象理解・反実仮想に対する頑健性を特徴とするプロセス駆動型モデリングと、(特定の指標に対する)高性能・低コスト・高い柔軟性を特徴とするデータ駆動型モデリングのいいところどりをした気象モデリングを「人機一体気象モデリング」と呼ぶとき、そのようなモデリングの可能性はいかほどか。本発表ではいくつかの既往研究と発表者自身の研究を紹介し、人機一体気象モデリングの現在地とその可能性について広範に議論したい。
第194回 ダウンスケーリングによる降水予測の高解像度化(金子 竜也)
現状、日本では洪水予測のための河川のモデルが発達する一方で、そのモデルに入力する降水のデータの精度に、不安がある。 水平格子間隔5kmのメソモデルでは主に25-40km以上の水平スケールの気象現象を表現するため、個々の積乱雲を表現するのが困難であることが影響している。そこで、本研究は、気象庁の5km格子データを1km格子にダウンスケーリングをすることで、よりピンポイントに、より高精度に大雨の危険性を予測できるようにするのが目的である。
第193回 雷雲内部の電荷分離機構に関する論文紹介(𠮷田 友紀)
落雷の発生には雷雲内で電荷が分離することが必要であり、その仕組みとして最も有力とされているのが霰と氷晶の衝突による着氷電荷分離機構である。しかしこれだけでは全ての雷雲の内部構造を説明することはできない可能性が指摘されている。例えば、固体降水粒子の融解や電場による分極誘導による電荷分離機構が提唱されている。本発表では、融解電荷分離機構による、スコールラインの0℃等温線付近における正電荷層の形成に関して調査した論文を紹介し、今後の研究方針について述べる。
第192回 雹の予測可能性の検討について(内藤 佳希)
雹は積乱雲の中で発生することがあり、降雹によって車両の損傷などの経済的な被害が生じる。しかし、現状の気象予報に用いられる数値モデルにおいて雹は直接表現されておらず、現在行われているレーダーによる観測・監視も、1時間程度より先の予測には利用が難しい。雹による被害を軽減するには降雹の1~2日前の早期の予報が必要となる。本発表では、雹に関する論文を紹介し、今後の研究方針について述べる。
第191回 路面凍結予測モデルを用いた冬季における路面雪氷状態の予測に向けて(甘利 稜馬)
北海道のような積雪寒冷地では、冬季になると降雪や気温変化により日々変化する路面の雪氷状態が、時に自動車をスリップあるいはスタックさせ、大きな交通障害を引き起こす。しかし、そのような路面状態はどのような気象条件によってもたらされるのか、これまで十分に解明されてこなかった。そこで、モデルを用いた解析を通して、気象変化から路面状態の変化を予測できるようになることを目指し、今後の研究の展望について述べる。
第190回 札幌市で観測された過去17年間の大雪事例を対象とした降雪粒子の密度に関する研究〜再考(佐藤 陽祐)
2022年1~2月に交通障害などを引き起こし、社会的影響の大きかった大雪事例のうち、2022年1月11日〜12日の大雪事例では、その48時間降雪密度が過去17年間(2005~2022年)で最も大きかったと報告された(加藤 2024)。 本発表ではこれらの研究成果に対して行った再解析について報告する。本研究の解析結果は、前述の事例における降雪密度が過去17年間で最も大きくなった理由は霙や液体降水が多かったことに起因する可能性が高いという加藤(2024)の結果を支持していた。本発表では、過去17年間の大雪事例を含めた降雪密度の要因について、気圧配置、気温、降雪粒子の特徴などから総合的に行った解析結果を紹介し、大雪事例の中で降雪密度が高くなりやすい事例についての考察を実施する。
第189回 融雪期におけるポットホール発生の気象条件(長谷川 豪太)
道路損傷形態の一つ、ポットホールは融雪期の北海道の道路の利用・管理に支障をきたしている。そこで、北海道内のアメダスデータを利用して、ポットホール発生要因の一つである、凍結融解にかかわる気温変化についての解>析を行ったので、それを紹介する。
第188回 雲内電荷の三次元構造の解析へ向けて(岩井 直太)
発表者が令和5年度に実施した卒業研究では航空機の被雷予測に関する研究を行った。研究では、航空機の被雷危険性をモデルを用いた数値予報を使って導出することで、1~2日前から予測可能となった。しかし、被雷危険性を 求める際の閾値は経験値に基づいたものであり、その閾値を物理的に決定する際に必要なモデルの出力変数である電荷密度に関する評価・検証は十分でないが、検証に必要な電荷密度の3次元的な分布の観測は限られている。電荷密度の評価方法の一つ として、雷の経路や雲内電荷の正負を評価することができる観測装置を用いて雷の放電の三次元構造を把握することが挙げられる。本発表では卒業研究及び現在取り組んでいる観測データに関する発表を行う。
第187回 メソアンサンブルによる日射量予測の特性及びその因子の解明に向けて(三原 共喜)
現在、日本では太陽光発電システムの導入が進んでいる。そのエネルギー源である太陽光は気象によって変動するので、日射量の予測が重要となる。気象庁では、数値予報モデルにより日射量の予測を行っている。完全な予測を行うことが可能なモデルは存在しないので、モデルによる予測特性の把握はその予測データを利用する際に重要となってくる。しかし、メソアンサンブル予報システムにおいては、その日射量予測の全国的な特性は解析されていない。そこで卒業研究では、メソアンサンブルによる日射量予測のアンサンブル平均、相対誤差、スプレッドの解析を行った。本発表では、卒業研究の内容及び今後の展望について紹介する。
第186回 シラカバ花粉の乾性沈着速度(山根 斗和)
シラカバ花粉は北海道における代表的な春季花粉症の原因である。花粉症の患者数は年々増えている一方、その根本的な治療法はいまだ存在しておらず、重症化を抑えるためには花粉の曝露を避ける必要がある。曝露を避けるためには花粉の飛散予測が重要であるが、現状では花粉の総飛散量や乾性沈着速度など基礎情報が不足している。本発表では、これらの基礎情報を獲得するために昨年行った野外観測の結果と1・2月に行った雄花の計数調査の結果を紹介する。
第185回 自己組織化写像を用いた日本の都市に対する暑熱気象区分の作成(松岡 亮)
これまで数多く提案されてきた気候区分は、平均・積算された気象学的要素に基づいており、時空間的に離散的に存在する極端気象を系統的に捉えきれない。本発表では、自己組織化写像を用いて都市に暑熱をもたらす気圧場を整理し、その結果に基づく日本の都市気象区分を提示する。極端な高温に対する区分では、フェーン現象をもたらす風系と関連すると思われる地理的連続性に乏しい気象区が見出された。このように、本手法は従来の気候区分では見えなかった気象の地理的系統性を抽出することができる。

ページの先頭へ

2023年度 第151回~
第184回 太陽光発電分野における気象予報と積雪に関する課題(大竹 秀明)
近年顕著に増大した太陽光発電の出力変動は日本の電力の需給にとって喫緊の課題となっている。太陽光発電の出力は日射量(雲)の影響を受けるが、気象予報の情報は電力需給の安定化のためにも重要な基盤技術である。その1つとして気象庁ではメソアンサンブル予報も防災の現業で活用されているが、日射量予測についての太陽光発電分野での活用の課題について整理する。また、太陽光発電の発電出力は積雪にも大きな影響を受ける。太陽光発電システム上の積雪形成と融雪、落雪時の積雪挙動についても事例を紹介する。
第183回 静止気象衛星ひまわりを用いた霧の微物理特性に関する研究(小長井 佑馬)
霧は大気中の水蒸気が凝結して水滴となり、地表付近の空中を漂う現象であるがその微物理特性について、広領域かつ長期間を対象として調べた先行研究は少ない。本研究では気象衛星ひまわりのデータと雲の微物理特性を解析する衛星解析アルゴリズムを用いて日本各地で観測される霧の微物理特性を研究することを目的とする。本発表では初期的な解析結果として、2015年の7月と8月における北海道の霧の光学的厚さと雲粒有効半径を導出した結果を紹介する。
第182回 シラカバ花粉の乾性沈着速度(山根 斗和)
シラカバ花粉は、鼻水や目のかゆみ、口腔アレルギーなどを伴う花粉症を引き起こすことで知られており、症状を抑えるためには花粉の分布予測は重要である。しかし、飛散予測に必要な、現実でのシラカバ花粉の乾性沈着速度やシラカバ樹木1本からの花粉総飛散量は明らかになっていない。本発表では、乾性沈着速度に関する野外観測の結果と数値モデルの比較について紹介する。
第181回 自己組織化写像を用いた領域実験におけるモデル不確実性評価(大西 肇)
気候変動予測に対するモデル間不確実性を評価することは予測結果の利用に際して重要であり、全球実験(低解像度の気候変動予測)に関しては複数のモデルで数値計算を行う事で評価されている。しかし、領域実験(高解像度の気候変動予測)については、数値計算のコストが高いことから評価されていない。本研究では、既存の気候変動予測データと自己組織化写像という分類手法を組み合わせる事で領域実験におけるモデル不確実性の評価を目指す。本発表では、研究手法の解説に加えて、九州の夏季の降水量と北海道の冬季の降雪量に本手法を適用した結果を紹介する。
第180回 エアロゾルが雷に与える影響について(山田 雄斗)
エアロゾルは雲凝結核や氷晶核としてはたらくことで、雲の微物理特性を変化させ、雲の発達の仕方、降水量、ひいては雷に影響をもたらす可能性があるとされている。これはエアロゾルの量が変動すると、雲の微物理特性が変化し、雲粒の衝突の起こりやすさが変わり、結果として電荷分離の起こりやすさが変化するためである。現在エアロゾルの発生や消滅のプロセスと雷を共に扱う、SCALE-SPRINTARS の開発が進んでいるが、その検証は不十分である。本発表では、エアロゾルの輸送の観点からの検証として 2020 年の長野県における計算結果を示す。また、エアロゾル・雲相互作用の観点からの検証として、2013 年のハワイ島における中間結果を発表する。
第179回 気象雷モデルを用いた航空機被雷危険予測に向けた予測評価(岩井 直太)
航空機被雷は航空機そのものの損傷や安定運航に影響を与えることに加えて、その影響により人流や物流などに遅延が生じることや航空会社が補償費用の負担をする必要があるなど、社会に経済的な影響を及ぼす。本発表では気象雷モデルを用いた航空機被雷危険手法の適用例の紹介と、観測から導いた航空機被雷危険領域との評価結果と今後の展望について発表する。
第178回 マルチグリッド法実装による気象モデル「SCALE」の雷モデルの高速化検討(淺井 颯馬)
SCALE(Scalable Computing for Advanced Library and Environment)は、理化学研究所によって開発された気象・気候ライブラリで、様々な物理スキームから構成されている。その中でも、雷モデルの計算コストが最も高くなっている。これは、雷モデル内で電場を求めるためにPoisson方程式の求解を行っており、大規模な連立方程式を解いているためである。山下 2018では、この連立方程式を高速化するために、対称ガウスザイデル前処理付Bi-CGSTAB(SGS- Bi-CGSTAB)を実装し、現在のSCALEのデフォルトソルバとして用いられている。このソルバは、格子幅と同じ長さの波長を持つ誤差は数反復で減衰するが、それよりも波長の大きい低周波の誤差は減衰しづらいという特徴を持つため、収束条件を満たすまでに反復回数がかかり計算コストが高くなるという問題がある。そこで、本研究では、異なる粗さの格子で問題を解くことで各波長の誤差を一様に減衰させることが可能である、マルチグリッド法を実装することで雷モデルの高速化を試みた。本発表では、マルチグリッド法の実装方法と実装結果について紹介する。
第177回 融雪期の道路損傷ポットホールの発生予測に向けて(長谷川 豪太)
積雪寒冷地である北海道内において、融雪期に発生するポットホールは道路の利用・管理に支障をきたしている。現状、ポットホールの検出性能の向上、補修の時短、舗装の強化など発生現場に応じた処理をしている。また、将来の気候変動、人手不足に対して道路管理の効率化が求められる。そこで、今研究では、ポットホールの発生予測を行いたい。凍結融解がポットホールの発生に影響する要因の一つであることに着目し、冬日について解析を行ったので、それについて紹介する。
第176回 MEPSの2023年下半期における日射量予測の特性(三原 共喜)
MEPSではアンサンブル予測を行うことで予測に幅をもたせることが可能であり、そのことにより信頼度や不確実性などの情報とともに気象場を予測することができる。本発表では、2023年6月から11月におけるMEPSによる日射量の予測値と全国のアメダスによる全天日射量の観測値との比較を行った結果を紹介する。
第175回 粒子法による雨滴シミュレーション(稲津 將)
気象学で一般的に用いられる数値計算法は空間を離散化する格子法であるが、粒子法では物体を離散化する。粒子法は、天体物理由来のSPHと、土木工学由来のMPSに大別されるが、本発表では後者を紹介する。主に数値計算を含めたMPSの詳細と雨滴シミュレーションへの応用について説明する。なお、今回は研究発表というより教育的な内容が多く含まれます。
第174回 定山渓ダム流域を対象とした積雪変質モデルに基づく融雪量の面的な推定(谷口 陽子)
観測された気象データに基づいた物理的な積雪変質モデルSNOWPACKを定山渓ダム流域に適用し,雪質変化も含めた融雪分布を示した。 レーダーアメダス解析雨量によって強制されたSNOWPACKによる実験では,上流側の標高が高い地域では積雪深の過小評価を示したが,流域の積雪環境をよく再現した。上流地点と下流地点では完全に融雪するのに22日の差がある一方で,ざらめ雪に変化するタイミングには差が見られず,全層がざらめ雪に変化してから35~40日後にダム流入量がピークを示すことが分かった。これらのことから,融雪水のダム流入予測においてざらめ雪の観点から示すことで,予測のリードタイムを延長できるのではないかと提案する。
第173回 大規模アンサンブルデータを用いた確率論的降雨モデルの構築に関する研究(篠原 瑞生)
日本全体を対象とした、確率論的に10万年分もの降雨イベントを発生させることのできる降雨モデルを構築、流出氾濫モデルと結合させることで、現在および将来における洪水リスクを確率論的に評価することができる。 確率論的降雨モデルは大きく分けて、気圧モデルパートと降雨モデルパートに分けられる。 本発表では、d4PDF(過去、2K、4K)を用いたモデル構築結果および、このモデルを用いた 流出解析結果について報告する。
第172回 都市街区気象モデルを用いた札幌市の暑熱環境の将来予測(鈴永 未希)
近年、日本国内の諸都市における暑熱環境は温暖化と都市化のため大きく変化しており、熱中症などそれに伴う健康被害の増大が社会問題となっている。 また、比較的冷涼な北日本においても、暑熱環境の変化に伴う熱中症リスクの増大が懸念されている。本研究の目的は、札幌市中心部において都市化と温暖化が進行した将来の暑熱環境予測を行うことである。本発表では、2030年を想定して行った温暖化と再開発の影響を調査する数値実験の結果を紹介する。
第171回 ドップラー型センサを用いた降雨観測(坂口 竜太)
降雨観測には主に雨量計による観測とレーダーによる観測がある。既存の雨量計は費用や運営の面から観測測器を稠密に設置することが難しく、レーダーは高解像だが山影など部分的に観測できない場所が発生し、雨量の推定に誤差が生じることがある。そこで、本研究は従来の測器より安価な測器であるドップラー降雨センサを使用して、既存の降雨観測の問題を解決することを目的としている。本発表では、昨年度に行った屋外定点観測の結果に加えて、本年度行った室内実験の結果を紹介する。
第170回 d4PDFを用いた北日本におけるリンゴ栽培環境への温暖化影響評価(山本 莉央)
地球温暖化の影響はその社会的な影響から大きな関心を集める話題である。特にリンゴをはじめとする果樹は気象の変化に脆弱であり、一旦栽植すれば容易に植え替えができない。そのため的確な影響評価に基づき早めに気候変動対策を講じることが必要と考えられる。 本発表では大規模なアンサンブルシミュレーションであるd4PDFを用いた、リンゴ黒星病発生危険度に対する温暖化影響評価の結果を示す。また、温暖化に伴う開花日変動について結果を示し、考察を述べる。
第169回 "ダウンバーストに先行する雷活動の激化における霰の成長環境の特性と遷移"(近藤 誠)
ダウンバーストに先行する雷活動の激化(Lightning Jump;LJ)は観測に基づく時間相関から予測指標として用いられるが、LJの発生条件となる物理過程は観測の制限から未解明な点が多い。LJの物理過程の理解には雷の発生に必要とされている霰と雪の衝突による着氷電荷分離過程やダウンバーストの発生に寄与する大きな霰粒子の成長が起こる混相域の雲微物理特性を解析する必要がある。そこで本研究ではLJの発生条件の解明のために混相域の電荷分離と霰の成長過程を考慮できる気象雷モデルを用いて雷の観測されたダウンバースト事例を対象に理想化実験を行い、LJとダウンバースト発生時の混相域の特徴と、その形成過程の調査した。
第168回 北海道札幌市の過去の大雪事例における降雪粒子の密度に関する研究(加藤 真奈)
2021年/2022年の冬季北海道において、記録的な大雪が複数回観測された。この2021年/2022年冬季の中でも、2022年1月11日-12日の大雪事例は、札幌市において過去17年間で最も降雪密度の大きい「重い雪」であった。本研究では、数値モデルとAMeDASを用い、当該事例をはじめとする複数の事例の解析を行い、降雪密度の大きくなった要因の考察を行った。
第167回 数値モデルを用いた日本海筋状雲に対する温暖化実験(佐藤 海斗)
冬季の日本海側や北海道では季節風に平行な筋状雲が形成されるが、JPCZが発生した際には季節風に直交する向きに筋状雲(Tモード筋状雲)が卓越し、多くの降雪をもたらす。本研究では数値モデルを使い温暖化によってJPCZ、Tモード筋状雲の構造の変化を調べる。本発表では2021年12/25から発生したJPCZの事例を対象とした再現実験と感度実験の結果を紹介する。
第166回 Reservoir computingの概要と応用例(本田 匠)
Reservoir computing (RC)は機械学習手法の一つであり、時系列データの処理に適している。RCは学習コストが低いにもかかわらず高い計算性能を実現し得るため、様々な応用が試みられている。本発表ではRCの概要と数値天気予報に関する最新の応用例、発表者が取り組んでいる課題を紹介する。
第165回 テレコネクションの力学に関する一考察(高谷 康太郎・京都産業大学)
中緯度大気のテレコネクションはその気候に与える影響の大きさから、長年、研究対象となっているが、いまだにその力学は明らかになったとは言い難い。本発表では、基本場と擾乱のエネルギー変換の視点から、テレコネクションの形成・維持に関わる力学を考察する。
第164回 シラカバ花粉の野外観測の報告と論文紹介(山根 斗和)
シラカバ花粉は、鼻水や目のかゆみ、口腔アレルギーなどを伴う花粉症を引き起こすことで知られており、症状を抑えるためにはどこにどの程度花粉が存在するのかを把握することは重要である。しかし、花粉が実際にどの程度移流されるのか、1本のシラカバ樹木の花粉飛散量はまだ明らかになっていない。本発表では、春に行った野外観測の報告とSofiev et al.(2006)の紹介を行う。
第163回 エアロゾルが雷に与える影響について(山田 雄斗)
エアロゾルの量は、雲の発達の仕方、降水量、雷に影響をもたらす可能性があるとされている。それはエアロゾルの量が変動すると、雲の微物理特性が変化し、雲粒の衝突の起こりやすさが変わり、結果として電荷分離の起こりやすさが変化するためであると説明されている。本発表ではエアロゾルが雷に与える影響に関して数値シミュレーションを用いて調べた論文を紹介する。また、この論文も含め先行研究では多くがエアロゾルは理想的に一様で与えているが、本来はエアロゾルの発生や消滅を陽に扱うことが必要である。現在これらエアロゾルのプロセスと雷を共に扱う、SCALE-SPRINTARS の開発が進んでおり、本発表では、その検証の第一歩として2020年の長野県におけるエアロゾルに関する計算結果を示す。
第162回 d4PDFを用いた北日本におけるリンゴ栽培環境への温暖化影響評価(山本 莉央)
地球温暖化の影響はその社会的な影響から大きな関心を集める話題である。特にリンゴをはじめとする果樹は気象の変化に脆弱であり、一旦栽植すれば容易に植え替えができない。そのため的確な影響評価に基づき早めに気候変動対策を講じることが必要と考えられる。 本発表では大規模なアンサンブルシミュレーションであるd4PDFを用いた、リンゴ黒星病発生危険度に対する温暖化影響評価の結果を示す。また、温暖化に伴う開花日変動について結果を示し、簡単な考察を述べる。
第161回 北海道の過去の大雪事例における降雪粒子の密度に関する数値的研究(加藤 真奈)
2021年/2022年の冬季北海道において、記録的な大雪が複数回観測された。この2021年/2022年冬季の中でも、2022年1月11日-12日の大雪事例は、低気圧通過によってもたらされた降雪であり、降雪密度の大きい「重い雪」であったことが観測データからも報告されている。本研究では、降雪粒子の密度に着目し、数値モデルを用いて2022年1月11日-12日の大雪事例に関する考察を行った。
第160回 米国における航空機被雷予測についての論文紹介(岩井 直太)
航空機被雷は乗客の安心を損なうことに加えて、航空機の遅れを生じさせる原因にもなり、安定運航に影響を与える。また航空機の補修費用、欠航や遅れに伴う補償などの経済的損失を航空会社が被ることとなる。本発表では米国における航空機被雷予測のための雷観測についての論文紹介と日本における雷観測との比較を行う。
第159回 融雪期に発生するポットホールについて(長谷川 豪太)
積雪寒冷地である北海道の道路舗装は過酷な条件におかれている。積雪期には道路雪氷が、融雪期には道路の損傷がある。今後の老朽化や気候変動によってそれらによる負担は大きくなるだろう。道路資産を安全かつ安定的に運用できるようにすることが、管理者側および利用者側のどちらも求められている。そこで、今回は特に道路の損傷のうち利用者側にも視認性の高くかつ、即自的な対応を求められるポットホールに焦点を当てて、先行研究のレビューや今後の課題について述べる。
第158回 気象モデル「SCALE」のGPU対応の検討(淺井 颯馬)
GPUとは、Graphics Processing Unitの略で、ゲームのグラフィックスなどに主に用いられる画像処理装置である。現在のスパコンに主に使用されているCPUのコア数が数十個であるのに対して、GPUのコア数は数千個であり、GPUを用いた並列化による高速化が期待されるため、次世代スパコンにはGPUが搭載される予定である。しかし、GPUで現在のコードを動かすことはできず、コードの修正を行う必要がある。そこで、本研究ではプログラミング言語「OpenACC」を使用し、「SCALE-RM」のコードのGPU化を行い、GPUによる計算速度の高速化を目指す。本発表では、GPUに関連した用語の説明や、OpenACCを用いたGPU化について書かれた論文「OpenACC Multi-GPU Approach for WSM6 Microphysics, Hercules et al., 2021」の紹介を行う。
第157回 メソアンサンブル予報システムを用いた太陽光発電の出力予測に向けて(三原 共喜)
太陽光発電システムは、日本国内の再生可能エネルギーによる発電の主力となっている。しかし、そのエネルギー源ゆえに太陽光発電の出力は気象場によって大きく左右される。本研究ではメソアンサンブル予報システム(MEPS)を用いて太陽光発電の出力を予測することを目的としている。本発表では、MEPSの仕様やこれまでの取り組みを中心に紹介するとともに、今後の展望について述べる。
第156回 Tモード筋状雲事例に対する温暖化実験(佐藤 海斗)
冬季の日本海側や北海道では季節風に平行な筋状雲が形成されるが、JPCZが発生した際には季節風に直交する向きに筋状雲(Tモード筋状雲)が卓越し、多くの降雪をもたらす。本研究では数値モデルを使い温暖化によってJPCZ、Tモード筋状雲の構造の変化を調べる。本発表では2021年12/25から発生したJPCZの事例を対象とした数値モデルの計算結果を紹介する。
第155回 トマムの雲海が観測された日の特性と雲海予報に関する考察(小長井 佑馬)
北海道の中央部トマム地方に位置する星野リゾートトマムでは雲海テラスから見られる雲海が観光資源となっている。星野リゾートトマムでは観光客向けに翌日の雲海発生確率を発表しているが、予報の精度の検証は行われていない。また、雲海が発生する日の気象場の内容も詳しく分かっていない。そこで本研究では過去の予報精度の検証と雲海が発生した日の気象場の把握、また発生した雲海の種類の分類を試みた。本発表では昨年度行った卒業研究の内容に加え、その後新たに行ったMANLを用いた雲海の分類についての内容を発表する。
第154回 観測と数値計算を用いた札幌市の暑熱環境評価(鈴永 未希)
近年、温暖化と都市化による暑熱環境の悪化と、それに伴う健康被害の増大が社会問題となっている。冷涼な札幌市においても2030年を目処に再開発が積極的に進められており、今後暑熱環境が大きく変化していくと考えられる。そこで、本研究では観測と数値気象モデルを用いて、札幌市における暑熱環境の要因分析と将来予測を行う。本発表では、昨年度行った観測結果と再現実験の結果、さらに2030年を想定して行った計算結果を紹介する。
第153回 自己組織化写像を用いた領域実験のモデル不確実性評価に向けて(大西 肇)
気候変動予測に対するモデル間の結果のばらつきを評価することは、予測結果の利用に際して重要である。しかし、高解像度の気候変動予測(領域実験)については、その計算コストが高いことから、モデル間の結果ばらつきが評価されていない。本研究では、自己組織化写像(SOM)という分類手法を用いて、低い計算コストで、領域実験におけるモデル間の結果のばらつきを評価することを目的とする。本発表では、SOMによる天気図分類の結果を見せ、そこから得られた、領域実験におけるモデル間のばらつきの一例を紹介する。
第152回 ドップラー降雨センサを用いた降雨観測(坂口 竜太)
降雨観測には主に雨量計による観測とレーダーによる観測がある。既存の雨量計は費用や運営の面から観測測器を稠密に設置することが難しく、レーダーは高解像だが山影など部分的に観測できない場所が発生し、雨量の推定に誤差が生じることがある。そこで、本研究では従来の測器より安価な測器であるドップラー降雨センサを使用して、既存の降雨観測の問題を解決することを目的としている。本発表では、センサの原理や実際に行った観測の結果を中心に紹介する。
第151回 気象雷モデルの現状と今後の開発方針(佐藤 陽祐)
雲の電気的な偏りを中和する現象として発生する雷は、高度に電子化された現代社会において大きな脅威である。 この雷を雲の水物質がもつ電荷を予報することで、物理モデルに基づいて直接計算する気象モデルを気象雷モデルと呼び、古くは1980年代からその開発とそれを用いた研究が実施されてきた。本研究では発表者である佐藤らのグループで開発を進めてきた気象雷モデル(Sato et al. 2019, 2021, 2022)の概要とそれを用いた複数の研究の紹介と、その問題点、および今後の開発方針について共有するとともに、新たに物理過程(融解電荷分離、誘導電荷分離過程)を実装した気象雷モデルを用いた(非常に)初期的な結果を紹介する。

ページの先頭へ

2022年度 第119回~
第150回 都市気象Large-eddy simulationモデルCity-LESの開発と応用(佐藤 拓人・筑波大学)
筑波大計算科学研究センターでは, 都市気象LESモデルCity-LESの開発を進めている. このモデルは, 都市街区内の建物や街路樹, ドライミストなどを複合的に考慮した上 で, 都市内の温熱環境を再現できる. 本発表では, City-LESの特徴や搭載されているサブモデル等を紹介する. また, City-LESを用いた熱環境シミュレーションによって得られた結果を例示する.
第149回 温暖化によるTモード筋状雲の構造の変化(佐藤 海斗)
冬季の日本海側や北海道では季節風に平行な筋状雲が形成され、大量の降雪をもたらすが、JPCZが発生した際には季節風に直交する向きに筋状雲(Tモード筋状雲)が卓越する。本研究では数値モデルを使い温暖化によってJPCZ、Tモード筋状雲の構造の変化を調べる。本発表では2021年12/25から発生したJPCZの事例を対象とした数値モデルの計算結果を紹介する。
第148回 北海道の過去の大雪事例における降雪粒子の密度に関する数値的研究(加藤 真奈)
2021年/2022年の冬季北海道において、記録的な大雪が複数回観測され、交通障害が多発し、除雪が困難な「重い雪」であったことが報告されている。この2021年/2022年冬季の中でも、特筆すべき大雪が1/11-12、2/5-6、2/21-22の3回にわたって発生し、 このうち1/11-12の事例は、降雪密度が大きい降雪があるとされる低気圧通過によってもたらされる雪であり、降雪密度の大きい「重い雪」であったことが観測データからも報告されている。しかしながらこの大きな降雪密度が過去に起こった降雪事例に対して特異であるのか、また大きな降雪密度をもたらした要因は必ずしも明らかではない。本研究では、降雪粒子の密度に着目し、1/11-12の降雪粒子の密度に関する考察を行った。
第147回 d4PDFを用いた北日本におけるリンゴ栽培環境への温暖化影響評価(山本 莉央)
地球温暖化の影響はその社会的な影響から大きな関心を集める話題である。特にリンゴをはじめとする果樹は栽培されると容易に植え替えができない点から気候変動に対して脆弱な作物の一つである。本発表では大規模なアンサンブルシミュレーションであるd4PDFを用いた簡単なリンゴの風被害リスク評価結果を紹介する。また、青森県リンゴ研究所の訪問報告を行う。加えて、今後の研究方針について紹介する。
第146回 トマムで観測される雲海の特性と雲海予報の精度に関する考察(小長井 佑馬)
北海道の中央部トマムにある星野リゾートトマムでは標高1088mの雲海テラスから見える雲海が観光資源となっている。星野リゾートでは雲海テラス営業期間中の5月から10月までの間、翌日の雲海出現確率の予報を行ってきたが今まで予報精度の検証は十分に行われてこなかった。また、予報が外れる原因や予報が外れた日の雲海の種類などの傾向の調査は実施されていない。本発表では過去の雲海予報の精度の評価とJRA-55を用いた、予報が当たった日や外れた日などの北海道周辺の風向や気圧配置を描画した結果を示す。
第145回 札幌市中心部における暑熱環境評価とその将来予測について(鈴永 未希)
近年、温暖化と都市化による暑熱環境の悪化と、それに伴う健康被害の増大が社会問題となっている。冷涼な札幌市においても2030年を目処に再開発が積極的に進められており、今後暑熱環境が大きく変化していくと考えられる。そこで、本研究では観測と数値気象モデルを用いた、札幌市における暑熱環境の要因分析と将来予測を目的として行う。本発表では、今年度行った観測結果と再現実験の結果、さらに2030年を想定して行った計算結果を紹介する。
第144回 気象雷モデルの航空機被雷危険性予測への利用可能性検討(佐藤 浩平)
航空機への被雷リスクを早期に検知することは、運航の経済性・輸送交通インフラの信頼性向上につながると期待できる。その実現に向けて、気象雷モデルでの計算結果を基に被雷危険性診断を行なった。今回の発表では夏季と冬季の2事例について、モデルベースで出力した被雷危険領域と観測情報やモデル内電荷・電場分布との比較結果を示す。
第143回 ドップラー降雨センサを用いた降雨観測(坂口 竜太)
近年、豪雨災害の頻度が高まる中、正確な降水量のデータを把握することが必要となってきている。そこで、本研究では従来の測器より安価な測器であるドップラー降雨センサを使用して、高解像度地上降水量データを取得することを目的としている。本発表では、本年行った観測の結果を中心に紹介をする。
第142回 SOMを用いたd4PDF,CMIP5の天気図分類(大西 肇)
本研究はd4PDFのDDSによる高解像データのモデルによる不確実性の評価を低コストで行うことを目的とする。その足がかりとしてd4PDFとCMIP5をSOMマップに投影し、出来たクラスターで両者を関連付けようと考えている。本発表では主に、これまでに関連付けのために行ってきた計算結果を紹介する。
第141回 ダム流域の面的な融雪環境の把握と予測手法の提案(谷口 陽子)
積雪寒冷地は融雪期の洪水被害の軽減や夏期の水資源量の安定供給のため,流域内の融雪水の発生タイミングと量を把握することが必要である。一方で降雪や積雪の観測は,精度や厳冬環境の問題もあり観測地を複数設置することが難しい。そこで,本研究では積雪変質の物理過程を表したSNOWPACKモデルを面的に適用し,流域の融雪環境の代表性を示す地点を明らかにすることを目的とする。これにより,任意の観測点から流域全体を評価できる手法を提案することができると考えている。本発表では,北海道ダム流域におけるSNOWPACKモデルの精度評価を主に発表する。
第140回 雷を直接考慮した気象雷モデルの予測性能について(富岡 拓海)
現業の発雷確率ガイダンスなどの雷予測は診断手法を用いて行われており、発雷の予報確率は高いものの雷の回数や頻度を予報するものではない。これまで本研究では、雷を陽に計算する気象雷モデルを用いて、日本の夏季、冬季の発雷事例の数値実験を行いその性能を検討してきた。本発表では、雷モデルの雲微物理モデルに対する感度実験の結果と、他の雷診断手法との定量的な比較の結果を示す。
第139回 数値モデルを用いた冬季北海道における降雪結晶に関する解析(鎌田 萌花)
降雪粒子の結晶形の違いは雪質や雪崩の発生確率などに影響するが、一般的な気象モデルでは結晶の形を直接予測することができない。そこで、本研究では降雪粒子を成長プロセス毎に区別することのできるHashimoto at el.(2020)のモデルを用い、北海道を対象とした降雪粒子の微物理学的特性の予測を行うことを目指す。 本発表では、2021年1月における現在気候での数値実験の結果と+4℃下での数値実験の結果の比較から得られた、将来予測される降雪の変化について紹介する。
第138回 LBM吹きだまりモデルの感度実験(丹治 星河)
吹雪による雪粒子の移動・堆積は,風の弱い場所で吹きだまりを形成する.これまで,障害物まわりに形成される吹きだまり分布をシミュレーションするために,格子ボルツマン法を用いた吹きだまりモデル(LBM吹きだまりモデル)を開発してきた.本発表では,このモデルを使用した吹雪粒子の運動プロセス,吹雪粒子の粒径・密度に関する感度実験を行った結果について示す.
第137回 大規模アンサンブルデータを用いた確率論的降雨モデルの構築に関する研究(篠原 瑞生)
日本全体を対象とした、確率論的に10万年分もの降雨イベントを発生させることのできる降雨モデルを構築、流出氾濫モデルと結合させることで、現在および将来における洪水リスクを確率論的に評価することができる。 確率論的降雨モデルは大きく分けて、気圧モデルパートと降雨モデルパートに分けられる。 本発表では、前回説明した海面気圧モデルパートに続き、降雨モデルパートに関する手法の詳細およびd4PDF(過去、2K、4K)を用いたモデル構築結果について報告する。
第136回 トビイロウンカの海外飛来に関する疑似温暖化実験と下層ジェットの関連性の検証(大石 渓登)
イネの害虫の一種であるトビイロウンカは梅雨期に発達する下層ジェットにより中国南部から日本へ飛来する。日本でのトビイロウンカ発生時期を予測することはイネの収穫量安定化につながる。本研究ではOtuka et al (2005)に基づきウンカ類飛来モデルを作成し、d4PDFを用いて温暖化した気象場を再現して、疑似温暖化実験を行った。本発表では疑似温暖化実験の結果を提示し、現在気候実験との飛来現象の変化を議論したうえで、トビイロウンカの飛来に関わる下層ジェットの強さについて考察する。また、今年8月に佐賀県農業試験研究センターと福岡県農林業総合試験場にてイネの病害虫に関する現場視察を行ったため、その内容も報告する。
第135回 気象モデルSCALEへのラドンおよびラドン壊変生成物プロセスの実装と検証(佐藤 陽祐)
ラドン(Rn-222)はウラン(U-238)系列に属する核種で、親核種であるラジウム(Ra-226)から生成される天然の放射性物質である。ウランやラジウムは岩石や土壌中に存在するため、ラドンは土壌中では常時生成され、その一部は大気中へ放出されている。希ガスであるラドンは化学的には安定であるため、化学反応や降水により除去されることがなく、Rn-222の半減期は3.82日であるため、数日程度の大気中での輸送プロセスを理解するためによく用いられる。Rn-222自体の観測は広く行われてはいないが、Rn-222の壊変生成物である鉛(Pb-214)やビスマス(Bi-214)は半減期の短い放射性物質であり、それらが降水過程などによって地上付近に到達すると、モニタリングポストにおいて線量率が上昇することもあり、それを介してRn-222の大気中での振る舞いを間接的に知ることができる可能性がある。そのため、これらのデータを利用することで、大気の輸送プロセスを詳細に知ることができる可能性がある。そこで、これらのデータを気象学的な理解に役立てることが可能か検討することを目的に、Rn-222とその壊変生成物の物理プロセスを、気象モデルSCALEに実装して数値実験を行った。本発表ではSCALEによって計算されたRn-222と観測されたRn-222の比較による検証の初期的な結果を紹介する。
第134回 気候と降水:衛星降水レーダ観測による世界の雨の仕組みの研究(高薮 縁・東京大学)
近年、世界各地でこれまでにない干ばつ、熱波、豪雨等による災害が頻繁に報道されています。地球温暖化に伴う気候危機対策は、現在、人類が全力を挙げて取り組まなければならない課題です。昨年発表されたIPCC WG1の第6次評価報告書では、世界中で増加している異常高温について人間活動との関連が明らかとされましたが、大雨の増加と人間活動との関連については、まだ十分に説明されていません。つまり、各地に大雨をもたらす仕組みが未だ十分に解明されていないということです。  1997年11月末に始めて宇宙からの降水レーダ観測を実現した熱帯降雨観測衛星降雨レーダ(TRMM PR)から全球降水観測計画二周波降水レーダ(GPM DPR)に続き25年に亘って蓄積されたレーダ観測データにより、世界の降水特性について統計的定量化が可能となりました。  レーダによる宇宙からの雨の立体観測は、降雨推定の精度向上のみならず、降雨特性のグローバルな定量化に大きく貢献しました。セミナーでは、雄大積雲降雨レジームの特徴、非断熱加熱推定、大気不安定による雨とメソシステムによる雨の相違、雨特性と環境場との対応と将来変化推定への応用などの研究結果をご紹介します。世界の雨、特に大雨をもたらすシステムの仕組みについて皆様と議論できましたら幸いです。
第133回 数値モデルを用いた冬季北海道における降雪結晶に関する解析(鎌田 萌花)
降雪粒子の結晶形の違いは雪質や雪崩の発生確率などに影響するが、一般的な気象モデルでは結晶の形を直接予測することができない。そこで、本研究では降雪粒子を成長プロセス毎に区別することのできるHashimoto at el.(2020)のモデルを用い、北海道を対象とした降雪粒子の微物理学的特性の予測を行うことを目指す。 本発表では、現在気候での降雪結晶の特徴を調べるために行った2020-2021年冬季北海道の計算結果について紹介する。
第132回 中国中南部から日本へのトビイロウンカ飛来に関する擬似温暖化実験(大石 渓登)
トビイロウンカとは西日本各地でイネの坪枯れや縞葉枯病を引き起こす害虫である。トビイロウンカは梅雨期から夏にかけて中国中南部から下層ジェットに運ばれて日本へ飛来するが、この飛来について地球温暖化による影響を調べられた研究は少ない。本発表では2003年6月26日-29日の事例について、ウンカ飛来を数値モデルで再現したOtuka et al. (2005)の再実験の結果を提示する。その上でd4PDFを用いた擬似温暖化実験を行い、ウンカ飛来の現在気候からの変化を検証する。
第131回 d4PDFによる熱帯低気圧の将来変化予測の紹介と農業分野への応用に向けて(山本 莉央)
地球温暖化の熱帯低気圧への影響は、その社会的な影響から大きな関心を集める話題である。気候変動に関する政府間パネル(IPCC) 第五次評価報告書では、温暖化の進行とともに個々の熱帯低気圧の最大風速や降水量が強まる可能性が高いことが示されている。本発表では大規模なアンサンブルシミュレーションであるd4PDFを用いて熱帯低気圧の将来変化予測をした論文を紹介するとともに、今後農業分野に応用する展望について発表する。
第130回 航空機被雷リスク識別手法の紹介と雷モデルによる被雷危険性予測に向けた解析(佐藤 浩平)
航空機への落雷は機体の損傷や運航便の遅延・欠航を引き起こすことから、その対策は航空各社が抱える課題となっている。本発表では被雷回避のための危険性予測技術に関する論文のレビューを行い、あわせて気象雷モデルの出力を用いた被雷予測手法の高度化を目指す自身の研究の展望を述べる。
第129回 トマムの雲海の予報について(小長井 佑馬)
トマムにある星野リゾートではテラスから見える雲海が名物となっている。本研究では星野リゾートで見られる雲海の予報精度をあげることを目標にしている。本発表では北海道沿岸部で観測される霧の減少傾向についての論文のレビューを中心に行う。
第128回 ドップラー降雨センサを用いた高解像度地上降水量データの取得に向けて(坂口 竜太)
近年、豪雨災害の頻度が高まる中、正確な降水量のデータを把握することが必要となってきている。そこで、本研究では従来の測器より比較的安価な測器であるドップラー降雨センサを使用して、高解像度地上降水量データを取得することを目標としている。本発表は、使用する測器の紹介を中心に行う。
第127回 SOM(自己組織化写像)の紹介と実行例(大西 肇)
SOMは学習型の分類手法であり、多次元情報を2次元マップ上に分類することを特徴とする。本発表では主にSOMの計算方法を紹介し、具体例として日本周辺の気圧配置に対するSOMの実行結果を報告する。
第126回 筋状雲の理想化実験について(佐藤 海斗)
冬季の日本海側を中心に発達する筋状雲は以前からシミュレーションが行われてきた。しかし、近年日本海に着目して行われた理想化実験は多くない。本研究では日本海を考慮した1000km規模の海を想定して筋状雲の理想化実験を行いたいと考えている。本発表では筋状雲の形成にかかわる湖水効果に関する先行研究のレビューを中心に行う。
第125回 北海道における降雪に占める霰・雪比率の変動要因解析(近藤 誠)
降雪に対する霰の寄与は、雪崩を予測する上で有用な情報である。しかし、気象モデルにおける降雪に対する霰の寄与は検証されていない。本研究では、新型ディスドロメーターで観測したデータを用いて、気象モデルにおける降雪への霰の寄与を検証する方法を提案した。さらに、検証したモデルを用いて、霰の生成に寄与する要因を調べることに成功した。その結果、霰の生成には、降雪雲中にライミングに適した温度帯の液水が存在することが必要であることがわかった。
第124回 雷を直接考慮した気象雷モデルの予測性能について(富岡 拓海)
現業の発雷確率ガイダンスなどの雷予測は診断手法を用いて行われており、発雷の予報確率は高いものの雷の回数や頻度を予報するものではない。そこで本研究では、積乱雲内の電気的特徴や雷を陽に計算する気象雷モデルと、雲内の氷物質の質量から雷回数を計算する診断手法の、夏季雷と冬季雷における予測性能を評価する。発表では、夏季の梅雨前線による豪雨と、冬季の北海道と北陸の事例における実験結果の評価と、解析の途中経過について報告する。
第123回 Process Tracking Modelを用いた雪結晶と気象場の関係に関する研究(加藤 真奈)
雪結晶形成場での気象条件は、降雪粒子の微物理特性を決定する重要な要素である。両者の関係の研究から、雪質・雪崩等の予測を目指す。卒業研究では、雪結晶の地上観測と気象庁の数値予報モデルに基づく解析値(MANL)の比較から結晶の形成場を推定した。以降、より正確な推定のため、降雪粒子の種類を区別した数値モデルであるProcess Tracking Modelを用いた解析を行った。本発表ではこれらの研究の経過と、前年度の地上雪結晶の観測結果の紹介を行う。
第122回 対流規模の初期値摂動が高解像度予測にもたらす強い非線形性について(小野 耕介)
高解像度の数値予報モデルによる予測では、初期値に与えた摂動が短時間のうちに非線形な時間発展を示すことが先行研究より示されている。本研究では線状降水帯事例において、初期値摂動の時間発展が対流スケールよりも規模が大きいメソスケールにおいて、特に強い非線形性を示すことがわかった。発表ではそのメカニズムについて、重力波に着目して解析を行った結果を報告する。
第121回 札幌市中心部の暑熱環境評価に向けて(鈴永 未希)
近年、冷涼な北海道においてさえ本州並みの暑夏となってきている。また、札幌市中心部では都市の再開発が積極的に進められており、今後暑熱環境は大きく変化していくと考えられる。そこで、本研究では観測と数値計算を用いた札幌市中心部の暑熱環境評価を目標として行う。本発表では、卒業研究で行った2021年8月12日の事例を紹介するとともに、研究の進歩と今後の方針について述べる。
第120回 これまでの領域スケールデータ同化研究と今後の予定 (本田 匠)
データ同化は、予報と観測データから現在の尤も確からしい状態を推定する、数値天気予報の基盤技術である。発表者はこれまで、静止気象衛星や最新の気象レーダーによる観測を用い、台風や突発的な豪雨と関連した領域スケールのデータ同化研究を継続して行っている。本発表では、これまでに得られている結果の概略を述べ、今後取り組む予定の研究課題を紹介する。
第119回 潜在空間を利用した中高緯度大気の長周期変動予測可能性 (稲津 將)
中高緯度大気はそのカオス的振る舞いのため、気象予報の限界は高々2週間程度とされている。しかし、中高緯度大気であっても予測限界が長い場合と短い場合があることが知られている。このことはこれまで少数の主成分で張られた相空間上で理解されてきた。本研究では実空間上から潜在空間への自己組織化写像によって理解する。まず、解析データから基準となる潜在空間を生成する。次に、S2Sプロジェクトによる各国気象機関の1か月アンサンブル予報データに射影する。潜在空間上のノードをまとめたクラスタ分析から大気状態を少数に分類することで、予測限界が長い場合と短い場合が、予報モデルによらず共通していることがわかった。これは物理的に 考えられる予測可能性に一致するものと期待される。

ページの先頭へ

2021年度 第83回~第118回
第118回 雪氷の現場から得た知見と観測の工夫について (原田 裕介・寒地土木研究所)
発表者は,北信越・東北・北海道地方において,理学・工学・農学の観点から,大学・民間・社団法人・研究機関で雪崩,吹雪,積雪,凍土に携わった。そして,降る雪・積もる雪・寒さ・社会が関与する雪氷災害は、面的・時系列で様々に変化することを学んだ。本発表では,これまでに雪氷の現場から得た知見と観測の工夫などについて紹介する。
第117回 降水粒子撮像観測に基づく融解層付近の降水粒子の形態に関する統計解析 (濱田 篤・富山大学)
固体降水,特に融解中の降水粒子の粒径分布や形状についての観測的知見は,気象レーダによる降水強度推定において非常に重要である。しかしながら,融解層は一般に上空に現れるため,降水粒子を直接観測することは容易でなく,観測研究が極めて限られているのが現状である。本講演では,近年開発された地上設置型の降水粒子撮像観測器G-PIMMSを用いて,融解中の降水粒子観測に好適な富山にて実施した冬季連続観測に基づく統計解析結果を紹介する。また,撮像された粒子の形状・種別の自動判別アルゴリズム開発についても紹介する。
第116回 二重偏波レーダーによる粒子判別結果と三次元電荷分布データを用いた夏季積乱雲内部の電荷分布構造の解析 (梅原 章仁・気象研究所)
我々は,現業用Cバンド固体素子二重偏波レーダーの高度利用の一環として,ベイズ分類に基づく現業向けの降水粒子判別手法を開発した. 当該手法は,着氷電荷分離機構で重要とされる霰や雹,上昇流に対応する降水粒子を尤もらしく判別できることから雷系プロダクトへの活用が期待されている. そこで,我々は,三次元放電路標定装置から求めた電荷分布データと粒子判別結果を相互に比較することで,電荷分布構造及び発生機構の考察を行った.
第115回 吹きだまりモデルの改良と観測との比較 (丹治 星河)
吹雪による雪粒子の移動・堆積は,風の弱い場所で吹きだまりを形成する.これまで,障害物まわりに形成される吹きだまり分布をシミュレーションするために,格子ボルツマン法を用いた吹きだまりモデル(LBM吹きだまりモデル)を開発してきた.しかし,モデルの吹きだまり結果と観測の吹きだまり結果との定量的な比較はまだ行っていない.そこで,本研究の目的は,吹雪中の風速・雪粒子フラックスの観測値をモデルに入力し,計算された吹きだまり分布と観測された吹きだまり分布とを比較することである.対象事例は継続した吹雪が約4時間発生した事例である.モデルの実験設定は,観測サイトに設置された防雪柵と同じサイズの柵を含む計算領域とした.本発表では,この比較実験の途中経過を示す.
第114回 数値予報における線形近似精度の研究 (小野 耕介)
現在多くの気象センターでは線形理論に基づく手法により数値予報の初期値を作成している。近年、数値予報モデルの精緻化及び大型計算機の性能向上に伴い、現業数値予報システムの高解像度化が進んでいる。モデルの精緻化・高解像度化は複雑な気象現象の予測を可能にする一方、非線形なプロセスが卓越するため、線形近似が有効であるかは明らかではない。そこで本研究では、非静力学モデルasucaを利用して高解像度モデルにおける線形近似精度を気象現象別に調べるとともに、非線形性が卓越する気象学的メカニズムを同定することを目的とする。 発表では研究背景・計画とともに、初期結果を紹介する。
第113回 北海道を対象とした降雪粒子の微物理学的特性の予測に関する研究 (鎌田 萌花)
気候変動を伴う温暖化によって北海道の気温上昇や積雪量の変化が見込まれ、同時に降雪粒子の微物理学的特性が変化し、降雪粒子の結晶形が変化すると推測される。そこで、本研究では降雪粒子を成長プロセス毎に区別することのできるHashimoto at el.(2020)のモデルを用い、北海道を対象とした降雪粒子の微物理学的特性の予測を行うことを目指す。 本発表では以前の発表から追加した事例におけるモデルの検証結果および、それらの計算結果から作成した北海道における雪の結晶形の二次元分布について紹介する。また、MANLの2021年1月のデータをもとにした長時間の計算結果についても紹介する。
第112回 雲解像モデルに向けた3次元放射伝達モデルの開発 (平田 憲)
多くの数値気象モデルで採用されている1次元放射伝達モデルは、高解像度な数値モデルにおいて加熱率の計算バイアスが生じる。しかし、従来の3次元放射伝達モデルは計算コストが大きく、数値モデルへの実装は困難であった。本研究では、look-up tableと共役勾配法を用いて高速化を図った3次元モデルTenstream (Jakub and Mayer, 2015)を発展させ、氷粒子を含む大気にも適用可能な拡張性の高い3次元放射伝達モデルを開発した。本発表では、モデルの改良点と性能評価、ならびに今後の開発の展望について紹介する。
第111回 2.湿潤対流形成に対する雲凝結核数濃度の影響 (宮本 佳明・慶応義塾大学)
湿潤対流の形成への雲凝結核(CCN)数濃度の影響を調べるため、ビン雲モデルを用いた数値シミュレーションを行なった。その結果、数濃度が10 cm-3以下の時は対流は形成せず、100 cm-3以上では対流強度(最大鉛直速度)がCCN数に大きく依存しないことが示された。 また、CCN数濃度の影響を加えたパーセル理論モデルを構築し、線形安定性解析を行なった。結果は数値計算と整合的で、CCN数が少ない時の対流未形成の理由として以下が考えられる。 CCN数が少ないと、凝結の時間スケールが拡散など流れの時間スケールよりも遥かに長くなり、水滴が十分な大きさに成長する前に過飽和が解消されてしまい、対流が形成する(条件付き不安定が働く)ための非断熱加熱量が得られないためである。
第111回 1.地表面観測データにおける降水量とPM2.5の関係 (藤野 梨沙子・慶応義塾大学)
エアロゾルと雲の相互作用への理解には、湿潤対流でどの程度エアロゾルが除去されるのかを明らかにする必要があるが、現在、観測に基づいた湿性除去の定量的理解は不十分である。そのため、本研究は神奈川県藤沢市辻堂における降水量とPM2.5濃度値の観測データを解析し、両者の関係を明らかにすることを目的とした。結果として、降水によってPM2.5濃度値が統計的に有意に減少していることが明らかとなった。具体的には、降水5時間前から降水開始3時間後までの8時間にわたり濃度値の減少がみられ、特に降水1時間前後においては20.99%の減少がみられた。また、降水強度別に、除去率を算出したところ、降水強度が大きいほど、除去率が大きくなることが明らかになった。これらの降水によるPM2.5濃度値減少は、雲内での核洗浄(レインアウト)や、雲底下での衝突洗浄(ウォッシュアウト)によると示唆される。
第110回 観測と数値計算を用いた札幌市の暑熱環境評価 (鈴永 未希)
近年、温暖化や都市化に伴う暑熱環境の悪化が広く社会問題となっている。比較的冷涼な地域である札幌においても、建物の老朽化などに伴う都市の再開発が積極的に進められており、暑熱環境は大きく変化していくと考えられる。そこで、湿球黒球温度WBGTの観測・数値計算を用いた札幌市の暑熱環境評価を研究目標とする。本発表では、2021年8月12日に行った札幌市中心部でのWBGTの観測結果と、都市街区気象モデルCity-LESを用いた数値計算の結果を紹介するとともに、研究の進歩と今後の方針について報告する。
第109回 地上観測とMANL解析の比較による雪結晶性質分析 (加藤 真奈)
雲微物理過程の解明は、地表における雪質の予測に繋がる。この過程を考えるにあたり、気象庁の数値予報モデルに基づく解析値 (MANL)を用いることで、地表観測では分からない高度・時間でのデータが得られる。今回は、雪結晶の性質(晶癖)を決定する条件である温度・過飽和度に着目し、2020年度冬季北海道の2つの降雪事例について、MANLによる解析を行った。本発表では、2事例の地上観測結果とMANL解析結果の比較と、今後の展望について述べる。
第108回 雲解像気候モデル実現へ向けた数値モデル開発 (三浦 裕亮・東京大学)
スーパーコンピュータの高速化に伴い、日本だけでなく欧米においてもGlobal convection-permitting model(慣例により全球雲解像モデルと訳す)を用いた気候シミュレーション実現へ向けて研究が本格化している。全球雲解像気候モデル実現を目指すプロジェクト研究について紹介し、解決すべき課題について議論する。また、発表者が開発を続けている正20面体格子上の数値流体力学コアについても簡単に紹介する。
第107回 気象雷モデルを用いた冬季雷に関する数値的研究 (韮澤 雄太朗)
北海道西部と北陸地方では厳冬期に大陸からの寒気の吹き出しに伴う大雪が降る傾向にある。しかし、北陸地方では厳冬期に雷が頻発する一方で、北海道では厳冬期に雷はほとんど起こらないとされている。本研究では厳冬期における北海道と北陸地方での雷頻度の違いの原因を調べることを目的として、気象雷モデルの計算を用いた事例解析を行った。本発表では雷頻度に直結する雲の電気的特性に関する北海道と北陸地方の違いに関する解析の途中経過を示す。
第106回 2014年9月11日の大雨による望月寒川の氾濫事例解析 (金盛 友香)
札幌市にある望月寒川は氾濫の起こりやすい中小都市河川である。望月寒川の氾濫を評価するためには時間・空間的に解像度の高い降水データを必要とする。統計的な手法や力学的ダウンスケーリングによって温暖化気候における高解像度の降水データを得ることを試みている。先日、整備が進められている望月寒川の放水路トンネルを見学した。見学時の写真とともにトンネルを紹介する。また、統計的な手法によって得た降水を用いて、2014年9月11日の氾濫事例にトンネルの放水の影響を加えたので紹介する。力学的ダウンスケーリングの手法の1つである擬似温暖化実験による研究の進捗も報告する。
第105回 北海道を対象とした降雪への霰寄与の変動要因解析~1冬季実験を用いた考察~ (近藤 誠)
降雪に寄与する霰や雪の時間変動を理解することは、雪崩の原因となる弱層の形成過程や数値気象予報精度の向上に重要である。本研究では北海道を対象とし、1冬季のシミュレーションを行い、モデルでの霰-雪比率を計算し、霰-雪比率の変動要因を解析した。その結果、西高東低の冬型の気圧配置の降雪において霰がほとんどない事例が存在し、生成された液水が強い寒気下でライミングではなく凍結によって消費されていることが原因であることがわかった。なお、このモデル霰-雪比率を検証するためにボリュームスキャン型ビデオディスドロメータの観測データから導出した観測値の霰-雪比率を用いた。
第104回 気象雷モデルの予測可能性について (富岡 拓海)
現業の雷予測は診断手法を用いて行われており、発雷の予報確率は高いが、雷の回数や頻度を予報するものではない。そこで本研究では雷を直接計算する気象雷モデルと、雲内の氷物質の質量から雷回数を計算する診断手法の、夏季雷と冬季雷における予測可能性を評価する。発表では、夏季の豪雨と冬季の北海道と北陸の事例における実験結果の紹介と、今後行う解析の展望について述べる。
第103回 静止気象衛星「ひまわり」とその後継機の検討 (國松 洋・札幌管区気象台)
静止気象衛星「ひまわり」の現行機は令和11年度までの運用を予定しており、後継衛星の製作を令和5年度から開始し、令和10年度に打ち上げを計画している。現在、「静止気象衛星に関する懇談会」において、今後の気象衛星の整備・運用のあり方について有識者にご議論いただいている。談話会では、気象庁の気象衛星業務についてこの懇談会の資料を中心に、発表者の気象庁での経験を添えて、ご紹介する。
第102回 静止衛星からの雷観測 (佐藤 陽祐)
雷放電を静止軌道から観測する雷センサは米国の2016年に打ち上げられた静止気象衛星GOES-Rに搭載され、静止軌道から雷放電の観測を行っている。また2023年に打ち上げ予定の欧州の衛星にも雷センサが搭載されることが決まっており、静止衛星からの雷放電観測に大きな注目が集まっている。本発表では「将来の静止衛星観測に係る検討会(MInT)」の雷センサ分科会において数年にわたり検討されてきた静止軌道からの衛星観測の有用性について紹介を行うとともに、数値モデルを用いた雷放電に関する研究の連携の可能性について紹介を行う。
第101回 北海道において大雨をもたらす低気圧の温暖化解析 (川添 祥)
極端な降水イベントが将来どのように変化するかは温暖化研究の中でも重大課題の一つである。それぞれの現象は、大気環境場や降水システム、降水の範囲や継続時間等相異するものであるが、多くは低気圧の直接・間接的な関係がみられる。今回は温帯低気圧・熱帯低気圧と降水の直接な関係に着目し、北海道における広範囲極端現象の温暖化応答をd4PDFを用いて調べた。降水量は温暖化による水蒸気増加だけではなく、低気圧の強さ、面積、移動速度も大きく関係しているので、それらの特徴も含めた解析結果を紹介する。
第100回 自己組織化写像を用いた、北海道における豪雪のトレンドと将来変化 (稲津 將)
海面気圧アノマリに対する自己組織化写像(SOM)を用いて、北海道における大雪の頻度、そのトレンド、および地球温暖化応答を調べた。ここでは、大雪日を降雪量が水換算で10 mmを超えた日と定義する。SOMにより北海道で生じる大雪日を、1)北海道南部での温帯低気圧の通過、2)西高東低の気圧パターン、3)北海道の東における低気圧偏差のパターンの3つのグループに分類できた。グループ1とグループ2は、それぞれ広尾(北海道南東部)と岩見沢(北海道西部)の大雪に関連し、札幌(北海道西部)の大雪はグループ3に関連していた。グループ2はWPパターンの負のフェーズに関連しており、このグループの頻度は将来増加することが明らかになった。一方、グループ1に関連する大雪日数は減少した。グループ2に関連する大雪日は、蒸発量の増加に伴う真冬に増加することが分かった。
第99回 ウンカ類飛来予測モデルOtuka et al.(2005)の再現実験と改良案の検証 (大石 渓登)
ウンカとは梅雨期から夏にかけて九州地方を中心とした日本各地でイネの坪枯れや縞葉枯病を引き起こす害虫である。このうちトビイロウンカは梅雨期に中国中南部から日本へ下層ジェットに運ばれて飛来する。本発表では2003年6月26日-29日の事例について、この飛来を数値モデルで再現したOtuka et al. (2005)に基づいて作成した数値モデルを用いて比較実験を行った結果を提示する。その上でより現実的な条件を設定したモデルを検証し、トビイロウンカの飛来の再現性についての議論を行う。
第98回 将来気候における豊平川流域の水資源量の変化 (谷口 陽子・苫小牧工業高等専門学校)
IPCC第5次評価報告書に対応した21世紀末の気候変動予測データを用いて,豊平川流域の水資源量がどのように変化するのかを示す。豊平川は北海道最大都市札幌を南北に貫き,札幌市民の水供給の約86%を賄っている。自然の水循環と人工の水循環が複雑に絡み合っている豊平川流域において,気候変動による水資源量の増減がどのように札幌市域の水利用へ影響するのかを議論する。また,気候変動が治水・利水へ及ぼす影響の最大の問題点はどのような点か,皆さんと意見を交わしたい。
第97回 温暖化気候における望月寒川の氾濫リスクの推定 (金盛 友香)
札幌市の中小都市河川の望月寒川を対象として、温暖化気候における氾濫リスクを評価する。望月寒川の氾濫リスクを評価するためには時間・空間的に解像度の高い降水データを必要とする。統計的な手法によって得た解像度の高い降水データを用いた温暖化気候における氾濫リスクの推定の結果を紹介する。また、力学的ダウスケーリングの手法の一つである擬似温暖化実験を用いて降水データを得る今後の研究の方針について述べる。
第96回 防雪柵まわりに形成される吹きだまりの数値実験 (丹治 星河)
冬季の北海道では,道路に発生する吹きだまりを防ぐために防雪柵が設置されている.しかし,吹きだまり緩和に最適な防雪柵の構造はわかっていないため,設置されている防雪柵は十分なパフォーマンスを発揮できていない.この問題に対して数値シミュレーションで解決するために、本研究では,3次元格子ボルツマン法による数値流体計算に基づいた吹きだまりモデルを開発した.このモデルでは,背景風を格子ボルツマン法で計算し,雪粒子の運動を求めた背景風に基づいて計算した.また,雪粒子のリバウンド過程と再飛散過程を導入した.
第95回 WBGTを用いた札幌市の暑熱環境評価に向けて (鈴永 未希)
近年、温暖化や都市化に伴う暑熱環境の悪化が広く社会問題となっている。比較的冷涼な地域である札幌においても、建物の老朽化などに伴う都市の再開発が積極的に進められており、暑熱環境は大きく変化していくと考えられる。そこで、湿球黒球温度WBGTの観測・数値計算を用いた札幌市の暑熱環境評価を研究目標とする。本発表では、WBGTや都市気候の基礎知識、関連論文を紹介するとともに、今後の研究方針を示す。
第94回 雲微物理過程と結晶の性質に関する研究 (加藤 真奈)
降雪をもたらす雲の微物理過程によって、晶癖やライミングの程度を始めとした雪結晶の性質が変化する。従って、結晶の観察から降雪の微物理が推定できると考える。この微物理過程を明らかにすることは、雪崩の様な雪質に関する現象の予測に繋がる。本発表では、アメリカ東海岸における冬季低気圧の微物理観測の研究論文と、2020年度冬季の北海道における降雪の観測事例についての分析を紹介し、今後の研究方針を示す。
第93回 北陸地方の冬季雷の特異性に関する研究 (韮澤 雄太朗)
北陸地方の冬季雷は、一発雷や正極性雷の割合が高いことを筆頭に特異である。冬季雷の観測や、気象モデルを用いた冬季の日本海の気象場に関する研究は行われているが、気象モデルを用いた冬季雷に関する研究は少ない。そこで、本研究では気象モデルを用いてある現実事例の解析を行い、北陸地方の冬季雷の特異性を調べることを目的とする。本発表では冬季雷の特徴と、気象モデルを用いた現実事例解析に関する論文の紹介を行い、今後の研究方針を報告する。
第92回 3次元放射伝達の基礎知識とモデル開発 (平田 憲)
数値モデルの高解像度化に伴い、水平方向へのエネルギー輸送を考慮した3次元放射伝達モデルの必要性が高まっている。一方、これまで開発されてきた3次元放射伝達モデルの多くは衛星リトリーバルに目的の主眼が置かれ、雲解像モデルへの実装には課題が残されてきた。本発表では、3次元放射を取り巻く基礎知識を関連論文のレビューとあわせて解説するとともに、発表者が現在開発している3次元放射伝達モデルの設計と今後の展望を紹介する。
第91回 北海道を対象とした降雪粒子の微物理学的特性の予測に関する研究 (鎌田 萌花)
気候変動を伴う温暖化によって北海道の気温上昇や積雪量の変化が見込まれ、同時に降雪粒子の微物理学的特性が変化し、降雪粒子の結晶形が変化すると推測される。 そこで、本研究では降雪粒子を成長プロセス毎に区別することのできるHashimoto at el.(2020)のモデルを用い、北海道を対象とした降雪粒子の微物理学的特性の予測を行うことを目指す。 卒業研究では計算領域を札幌を中心とした北海道の一部及びその周辺の海上のみに計算領域を設定して2事例の計算を行い、数値モデルの検証を試みたが、計算領域外から流入する雲を再現することが困難であった。また、札幌以外の領域を対象とした降雪粒子について検証をすることが困難であった。そこで、計算領域を拡大した計算を事例を増やして行うとともに、2020/2021の冬に観測された降雪粒子の結晶の写真を用いて検証を行った。本発表ではその途中経過を報告する。
第90回 気象モデルを用いた北海道での複数冬季降雪イベントに対する雲微物理スキームの評価 (近藤 誠)
混相雲・氷相雲内部では,気温と水蒸気の過飽和度に応じた成長過程を経て種々の固体降水粒子が生成される。しかし、バルク雲微物理スキームでは固体降水粒子を雲氷・雪・霰の三種にまとめており、混相・氷相雲を表現する上でその妥当性は検証されるべき課題である。本研究ではKondo et al. (2021)を北海道の複数地点・複数事例に拡張し、ボリュームスキャン型ビデオディスドロメータによる固体降水の粒径・落下速度の観測データを用いて、バルク雲微物理スキームの評価を行う。本発表ではひと冬計算の初期解析結果を報告する。
第89回 大規模アンサンブルデータを用いた確率論的降雨モデルの構築に関する研究 (篠原 瑞生)
日本全体を対象とした、確率論的に10万年分もの降雨イベントを発生させることのできる降雨モデルを構築、流出氾濫モデルと結合させることで、現在および将来における洪水リスクを確率論的に評価することができる。 本発表では、このうち、確率論的降雨モデルに関する手法の詳細およびd4PDF(過去、2K、4K)を用いたモデル構築の進捗について報告する。
第88回 北海道において大雨をもたらす低気圧の温暖化解析 (川添 祥)
極端な降水事象は近年幅広い地域で増加傾向を示しており、温暖化が促進すれば、より強く,より頻繁にこのような現象が起こりうる可能性が高いと予想されている。しかし、極端降水現象が実際どのように変化していくかは、大気環境場や降水システムよりある程度異なりが生じてもおかしくはない。そこで、本研究では北海道を対象とし、温帯低気圧と熱帯低気圧がもたらす極端降水現象の将来変化を大規模アンサンブル気候予測データ「d4PDF」を用いて解析した。本発表で前回の初期解析結果発表からの進展を紹介する。
第87回 気象雷モデルの予測可能性の検討 (富岡 拓海)
雷とは、積乱雲の中の電気的な偏りを中和するために放電する現象である。しかし、雷やその電気的特徴を陽に計算する雷モデルで、現実事例を扱っている研究は少ない。そこで本研究では、気象雷モデルの予測可能性の検証を目的とする。本発表では、卒業研究で用いた雷診断手法を改良した結果の紹介と、いくつかの冬季雷の事例を雷モデルを用いて数値実験した初期解析結果の紹介を行う。
第86回 数値気候モデルを用いた温暖化気候下でのウンカ飛来予測に向けて (大石 渓登)
ウンカとは梅雨期から夏にかけて九州地方を中心とした日本各地でイネの坪枯れや縞葉枯病を引き起こす害虫である。近年の研究でウンカは梅雨期に中国中南部から日本へ下層ジェットに運ばれて飛来することがわかってきた。本研究の目的はこのウンカの移動を数値気候モデルで再現し、温暖化気候での日本への飛来予測を行うことである。本発表ではウンカの飛来についての基礎知識とその関連論文、そして今後の研究方針を紹介する。
第85回 雲降水過程に関する数値モデル開発 (佐藤 陽祐)
雲は降水・降雪過程を通して日々の天気に密接に関わっている。また、それを構成する雲粒が水の一つの形態であることから、地球の水収支に大きな影響を及ぼすのみならず、相変化に伴う熱の出入りや放射過程を介して地球のエネルギー収支に重要な役割を果たしており、その振る舞いを理解するために数値モデルでの実験が行われている。本発表では発表者がこれまでに行ってきた、雲に関連した数値モデルの開発とそれを用いた数値実験の目的を解説する。その上で、例として、梅雨期の豪雨の特性と雷頻度に関連した数値実験に関する紹介を行う
第84回 力学系とアンサンブル予測の基礎知識およびその応用研究例 (稲津 將)
1週間から1か月予報は複数の初期値から予報モデルの時間積分を行うアンサンブル予報として実施される。本発表では力学系に対する考え方から出発して現業のアンサンブル予報に関する基礎を解説する。また、発表者がこれまで気象庁予報データを利用して研究した内容の一部を応用研究例として紹介する。
第83回 新年度にあたり相談会(稲津 將)

ページの先頭へ

2020年度 第57回~第82回
第82回 2.Idealized 2D Simulations of Arctic Mixed-Phase Clouds Observed during the SHEBA Campaign by SCALE-AMPS LES Model (Ong Chia Rui・東京大学)
Mixed-phase low-level stratiform clouds are frequently encountered in the Arctic region. There is a broad consensus that this type of cloud plays an important role in regulating the Arctic climate by trapping the outgoing surface longwave radiative flux and reflecting incoming solar radiation. However, models are often unable to consistently reproduce mixed-phase clouds with correct phase composition, hampering our ability to predict the Arctic future climate. It is suspected that the inconsistency is due to incorrect representation of ice microphysical processes. Deploying a microphysics scheme that can resolve these processes as detailed as possible may be a good start to understand the inconsistency in the future. In light of this, I have implemented the sophisticated microphysics scheme AMPS, which is a two-moment hybrid-bin scheme and capable of flexibly diagnosing the internal mass composition and geometrical structure of ice particles from the basic principles without having to prescribe a mass-size relationship, into the LES model SCALE (SCALE-AMPS). In this presentation, I will show the performance of SCALE-AMPS via simulations of mixed-phase clouds observed during the SHEBA campaign. The microphysical properties and thermodynamics profiles are analyzed and compared with the observations.
第82回 1.Research activity 2020 at Hashino lab (端野 典平・高知工科大学)
I will present the research activity conducted at Hashino lab. The bachelor students worked on 1) analysis of polarimetric radar observation from MIRAI, 2) development of sound-based rain gages with deep learning, 3) simulation of frontal snowfall during GCPEX, and 4) variability of cloud microphysical variables during ISDAC campaign. The issues include use of hydrometeor identification for model evaluation, direct measurement of falling rain drops, initialization of a habit-prediction model in a regional simulation, and relating sub-grid variability to resolved variables.
第81回 2017/2018年冬季における北海道の吹雪発生マップの作成 (丹治 星河)
吹雪によって雪粒子が目線の高さまで巻き上げられると,空気中の雪粒子の光の散乱効果あるいは移動する雪粒子の残像効果によって視程が低下する.本研究では,1km解像度の気象データを用いて,2017/2018年の北海道で発生した吹雪による視程低下を計算し,吹雪発生マップを作成した.また,自己組織化マップ(SOM)を作成して冬季の日本付近における気圧偏差の分布を分類し,北海道で吹雪が発生したときの総観場の特徴を調べた.また,2018年より開発を進めている吹きだまりモデルの進捗についても発表する.
第80回 北海道を対象とした降雪粒子の微物理特性に関する数値的研究 (鎌田 萌花)
気候変動を伴う温暖化によって北海道の気温上昇や積雪量の変化が見込まれ、同時に降雪粒子の微物理学的特性が変化すると推測される。しかし、従来の気象シミュレーションを行うほとんどの数値モデルでは降雪粒子を成長プロセス毎に区別していない。そこで、本研究では降雪粒子を成長プロセス毎に区別することのできるHashimoto at el.(2020)のProcess Tracking Modelを実装した気象モデルを用いて予測を行う。本発表ではモデルについての紹介とモデルの検証結果についての紹介を行う。
第79回 台風ボーガスを利用した降水領域を分類する手法の開発 (大石 渓登)
日本付近に梅雨前線が伸びる時期に台風が接近すると、台風性降水領域と前線性降水領域の区別が困難になる。この問題を解決するために、渦位逆変換法で作成した台風ボーガスを用いて台風発生期の気象場から台風の効果を取り除き、それを初期値・境界値条件として課した数値計算により台風性降水のない気象場を求める手法を開発したい。本発表では本研究で実施する渦位逆置換法による台風ボーガス作成方法を紹介し、2018年台風7号についての計算結果を示す。
第78回 主成分分析を用いた線状降水帯の抽出 (平末 彬)
近年、平成30年7月豪雨や平成26年8月豪雨などといった、線状降水帯による激しい災害が頻繁に発生しており、これに関する研究が多くなされている。しかし、線状降水帯について、それらを抽出する方法が特に統一されて行われてはおらず、主観的な抽出が行われている。本研究では、主成分分析を用いることにより、客観的な手法により線状降水帯を抽出する方法の開発を試みた。
第77回 シチズンサイエンスによる降雪結晶観測 (荒木 健太郎・気象庁気象研究所)
降雪結晶の微物理特性の把握のためには,降雪結晶をマクロ撮影した画像データの解析が有効だが,時空間的に密なデータ取得には課題がある.本講演では,気象研究所で実施している首都圏における市民参加型(シチズンサイエンス)による降雪結晶観測の取り組みについて,その概要や観測方法,シチズンサイエンスデータの特性等について紹介する.
第76回 平成29年7月九州北部豪雨と平成30年7月豪雨の発雷特性の違いに関する数値的研究 (富岡 拓海)
本研究では、気象モデルの物理量から雷回数を診断する手法の開発し、開発した手法を用いて、平成29年7月九州北部豪雨と平成30年7月豪雨の発雷特性の違いの原因を調べた。検証の結果、開発した手法は2つの豪雨の相対的な雷頻度の違いを表現できることが分かった。一方、雷の絶対数や時系列、位置を再現することはできなかった。また解析の結果、2つの事例の発雷特性の違いは、平成29年7月九州北部豪雨の方が積乱雲内での液水粒子の鉛直輸送量が多く、霰の質量が多いことに起因している可能性があることが示された。
第75回 確率論的降雨モデルを用いた、気候変動による洪水リスクへの影響評価に関する研究 (篠原 瑞生)
博士課程で計画している研究テーマについて紹介する。 近年頻発する大規模な洪水被害、そして、気候変動により懸念されているそのリスク増大の影響評価は、防災分野のみならず産業界においても急務である。 そこで、日本全体を対象とした、確率論的に10万年分もの降雨イベントを発生させることのできる降雨モデルを構築、流出氾濫モデルと結合させることで、現在および将来における洪水リスクを確率論的に評価することを目的とする。
第74回 タンクモデルを用いた望月寒川における氾濫可能性の推定 (金盛 友香)
札幌市にある望月寒川は、大雨時の急激な水位の上昇により氾濫を起こしやすい中小都市河川である。この望月寒川を対象として大雨時の氾濫可能性を推定するために、タンクモデルによる流出の再現を試みた。タンクモデルの作成の過程や過去の大雨事例の氾濫可能性の推定について紹介する。また、多アンサンブルデータベースd4PDFより温暖化気候での極端降水の降水量増加を見積もった。これをもとに温暖化気候での氾濫可能性についても検討する。
第73回 大規模アンサンブル気象データを用いた北海道のバレイショへの気候変動影響の確率的評価 (菅原 邦泰)
大規模アンサンブル気象データd4PDFを用いて、北海道のバレイショへの温暖化による影響の確率的な評価と適応策の検討を行った。温暖化環境(2K・4K上昇環境)では持続的な低温による生育の遅れのリスクは減少するものの、塊茎肥大期における高温が収量に負の影響を与えることが分かった。この影響は植付日を1か月前倒しにすることでは避けられないため、耐暑性品種への転換が必要な適応策となりうることが分かった。また、本発表では本年5月1日から8月17日にかけて理学8号館西側にて行ったバレイショ(メークイン)の栽培の記録についても報告する。
第72回 大雨をもたらす低気圧の初期解析報告 (川添 祥)
毎年のように発生する記録的豪雨により、日本各地で様々な災害が起きている。豪雨の発生要因は多々あり、その要因の中には温帯低気圧や台風の直接/間接的な影響が含まれる。本研究では、西日本及び北海道で発生した豪雨を気象庁1kmメッシュ解析雨量から抽出し、低気圧トラッキングプログラムNEAT(Neighborhood Enclosed Area Tracking algorithm; Inatsu 2009, Inatsu et al. 2013)の使用の元、豪雨周辺を通過する低気圧(温帯+台風)との関係性を調べた。今回の発表では初期解析結果のもだが、このように分類された降水現象が温暖化によりどう変化するかを目標としている。
第71回 気象モデルを用いたダウンバーストに先行する雷活動の激化に関する予備的な調査 (近藤 誠)
ダウンバーストは積乱雲からの強い下降気流による突風現象であり、観測的研究からlightning jumpと呼ばれるダウンバーストの発生前の雷活動の激化が報告されている。本研究では気象雷モデルを用いてダウンバーストとlightning jumpの関係を調査することを目的とする。本セミナーでは前段階として先行研究のレビューおよび、気象モデルでのダウンバーストの再現性調査のために行った、雷を考慮しない理想実験の結果について発表を行う。
第70回 雷放電観測(LIDEN)を用いた気象雷モデルの検証 (佐藤 陽祐)
Sato et al. (2019)で開発された雷を陽に扱うことのできる気象モデルSCALEをDownscalingによる現実事例に拡張した。拡張したSCALEを用いて2017年の九州北部豪雨、2018年の西日本豪雨、2018年の北海道を対象とした数値実験を行い、気象庁が実施している雷放電観測(LIDEN)との比較を通してSCALEの検証を行った。検証の結果、SCALEは3つの事例で観測された雷頻度の相対的な大小関係を再現できていることが明らかになった一方、雷頻度を過大評価する傾向が見られた。 この過大評価の原因は、SCALEによって計算される雲が観測に比べ、雲頂高度が高く、活発な対流雲となっていることであることが観測および気象庁非静力学モデル(JMANHM)の計算結果から示唆された。発表では些かマニアックであることは承知の上で、SCALEの雲微物理モデルのどの部分に原因があるか?の調査結果についても紹介する。
第69回 気圧・降水変換器の開発 (稲津 將)
海面気圧を多段回帰モデルであるSLPエミュレータにより長期間の海面気圧を得て、アナログ法と特異値分解解析を組み合わせて気圧から降水へと変換する、という極端降水の統計のための長期降水データを得る新たな手法を開発した。SLPエミュレータを簡単にレビューし、1000モード主成分に分解した全球再解析の海面気圧データに基づいて、多段回帰モデルを構築した。このモデルを積分することで日々の気圧値を得て、これを6時間ごとの値に補間した。次に、気圧・降水変換器を開発し、6時間ごとの気圧データから日降水量を得た。海面気圧およびその時間変化の空間パターンと類似した日を学習期間から探索し、その合成を第一推定値とする。実際の気圧と第一推定の気圧の差に相当する降水を、観測から得られた特異値分解解析の結果を使って求める。両者の合計が気圧・降水変換器で得られる値とする。この値は時間的空間的な連続性を満たし、極値統計も8年の学習期間を延長したものとなっていた。
第68回 線状降水帯の客観的分類についての研究とその関連論文(Bluestein and Jain (1985), Teruyuki Kato (1996)の紹介 (平末 彬)
近年激甚な災害をもたらしている線状降水帯について、下層の水蒸気量や鉛直シアの値から客観的に線状降水帯の分類を行い、今後の他の線状降水帯に関する研究への手助けとなればと考えている。現在研究自体にはまだ着手できていないため、これまで読んできた2つの論文についての紹介と、今後取り組む予定のことについて説明する。
第67回 温暖化による北海道のバレイショへの高温リスクの評価と適応策の検討 (菅原 邦泰)
気候変動の影響は農業分野でも顕在化しつつあり、気候変動に対する適応策を農業分野においても講じる必要がある。それは国内でもっとも農業が盛んな北海道でも同様である。本講演では、穀物を除いて世界で最も生産量の多い農作物であるバレイショ(ジャガイモ)に対する気候変動の影響を、多アンサンブルデータベースd4PDFを用いて定量的に評価すること、および適応策を検討することを目的とする。
第66回 平成29年7月九州北部豪雨と平成30年7月豪雨の発雷特性の違いに関する数値的研究の方針と関連論文(Takemi(2018))の紹介 (富岡 拓海)
近年、数多くの 豪雨災害が頻繁に発生している。それらの豪雨のうち、平成29年7月に発生した九州北部豪雨と平成30年7月豪雨は共に24時間で500mmを超える降水量を記録したが、雷頻度という観点では異なっていることが先行研究より報告されている。それらの研究によれば九州北部豪雨では発雷頻度が高かった一方、平成30年7月豪雨のは辛い頻度は低かった。しかし、発雷に密接に関わる雲の電荷分布や雲微物理特性に関して、両者の違いの原因について言及している研究は少ない。そこで、本研究では数値モデルを用いそれぞれの事例を再現し、雷雲の帯電に寄与していると考えられる霰や氷晶に焦点を当てた解析、比較を行うことで、発雷特性の違いの原因を解明することを目指す。今回のセミナーでは研究の方針とTakemi(2018)の論文の紹介を行う。
第65回 北海道を対象とした降雪粒子の微物理学的特性の将来予測に関する研究と関連論文(Hashimoto et al.(2020)の紹介 (鎌田 萌花)
将来、気候変動を伴う温暖化によって北海道の気温上昇や積雪量の変化が見込まれる、同時に降雪粒子の微物理学的特性が変化すると推測される。しかし、従来の気象シミュレーションを行う数値モデルでは降雪粒子を成長プロセス毎に区別していない。そこで、本研究では降雪粒子を成長プロセス毎に区別することのできるHashimoto at el.(2020)のモデルを用い、北海道を対象とした降雪粒子の微物理学的特性の将来予測を行うことを目指す。今回のセミナーでは研究の方針とHashimoto et al.(2020)の論文の紹介を行う。
第64回 温暖化における北海道の多湿化 (髙畠 大地)
地球温暖化は北海道のような亜寒帯では高温多湿化をもたらし、また降水量の増加も報告されている.しかし降水がどのような原因で増加するのかは明らかになっていない.本研究では北海道および比較のために九州を対象として温暖化による水蒸気の変化およびそれに伴う降水特性の変化を調べた.
第63回 台風ボーガスを用いた台風性降水領域の評価 (大石 渓登)
一般に台風の予報には数値シミュレーションを用いることが多い。しかし解析データをモデルに埋め込むだけでは、再現される台風が実際の台風と比べて大きく、中心最低気圧が高くなるという欠陥が生じる。この問題を解決するために、疑似的な台風の渦をモデルに埋め込む「台風ボーガス」の手法が採られる。この手法を応用して台風性降水と、別の要因による降水を判別し、台風性降水の領域を評価することをめざす。
第62回 格子ボルツマン法を用いた吹きだまりモデルの開発 (丹治 星河)
冬季の北海道では,道路に発生する吹きだまりの対策として防雪柵が各所に設置されている.しかし,吹きだまり緩和に最適な防雪柵の構造はわかっていないため,設置されている防雪柵は十分なパフォーマンスを発揮できていない.この問題に対して数値シミュレーションで解決するために、本研究では,3次元格子ボルツマン法による数値流体計算に基づいた吹きだまりモデルを開発した.
第61回 望月寒川における氾濫可能性の予測に向けて (金盛 友香)
札幌市には望月寒川という中小都市河川がある。望月寒川は大雨時の急激な水位の上昇により氾濫を起こしやすいため、洪水の確率的な予測や温暖化が進んだ場合の氾濫リスクの評価を行いたいと考えている。そこで、このような洪水の確率的予測の研究の第一歩として、タンクモデルを用いて過去の事例における水位の推定を行った。この結果と今後の研究の方針を述べる。
第60回 気象モデルを用いた北海道での冬季降雪イベントに対する雲微物理スキームの評価 (近藤 誠)
本研究では、北海道における降雪イベントを対象として、観測との比較を通じてバルク雲微物理スキームの改良を行った。気象モデルSCALEに実装されている3種類のバルクスキームをディスドロメータによる地上観測値と比較した。また、観測の結果に基づいて数濃度の診断パラメータを変更することで、1モーメントバルクスキームの改良を行った。数値実験の結果から、落下速度毎の粒子の頻度は2モーメントバルクスキームの再現性が高いことが明らかになった。一方で、1モーメントバルクスキームでは霰の粒子の頻度が過大評価されていた。これらの結果を踏まえて、1モーメントバルクスキームにおいて霰の粒径-落下速度関係式と数濃度を診断するパラメータを改良し、再現性を改善できることが示唆された。
第59回 札幌における高解像度花粉量予測システムの構築 (稲津 將)
札幌におけるシラカバ花粉濃度の予測モデルを開発した。花粉の大部分が発生源付近に沈着することを考慮して、道路や自然歩道に沿った現地踏査とGoogleマップでのストリートビューにより、札幌市中心から約10kmの範囲で高解像度のシラカバ樹木密度マップを作成した。次に、シラカバ花粉沈着量をシラカバ樹木密度、気温、風、大気境界層での乱流混合、重力沈降、および降水による湿性沈着により計算する大気拡散沈着モデルを開発した。飛散開始日は道立衛生研究所における花粉観察に基づいて与えられ、計算終了日は40日であると仮定した。2001年から2011年まで飛散予測シミュレーションは、観測における日変化をよく再現した。また、シラカバ花粉沈着分布は、風の強い日でさえ、シラカバ樹木密度の高い地域で高かった。
第58回 福島第1原子力発電所起源の137Csを対象としたモデル間比較プロジェクト(FDNPP-MIP)〜これまでの概要と最新の結果〜 (佐藤 陽祐)
2011年3月11日に発生した東京電力福島第1原子力発電所から放出された放射性物質の大気中での挙動を把握するため、数値モデルを使った研究がこれまで数多く行われてきた。それらの研究を通して、ここの研究で用いられてきた複数の数値モデルの結果を相互に比較し、モデルが持つ不確実性を評価するモデル間比較プロジェクトがこれまでに複数回行われている。本研究発表ではこれまで行われたモデル間比較プロジェクトの概要と、現在成果をまとめる段階にある第3回のモデル間比較プロジェクトの概要について紹介をする。発表ではこれ以外にも最近のSCALEの開発動向についても紹介する。
第57回 新年度にあたり相談会(稲津 將)

ページの先頭へ

2019年度 第35回~第56回
第58回 晶癖予測雲微物理スキームSHIPSの応用と課題 (端野 典平・高知工科大学)
大気中の氷粒子は形状が多種多様で、密度と大きさの取る値の範囲も1000倍の幅があり、数値モデル上の表現が難しい。 晶癖予測雲微物理スキームSHIPSは、氷粒子の放射特性を再現することを目的として開発されてきた。本発表ではこれまでのSHIPSを用いた再現実験や衛星データシミュレータについて、達成できたことやこれからの課題について議論する。
第57回 二重偏波レーダーを用いた降水粒子判別手法の開発 (梅原 章仁・気象研究所)
平成27年度以降、気象庁では現業用Cバンド固体素子二重偏波レーダーの導入を進めており、以降、降水粒子の形状特性・分布特性等を捉えた観測データ(以下、二重偏波情報)が得られるようになった。この情勢を受け、我々は、二重偏波情報の高度利用の一環として、ベイズ分類に基づく現業向けの降水粒子判別手法を開発した。本発表では、当該手法の概要、判別性能の検証結果、並びに判別結果を用いた発雷・突風ポテンシャルの推定に向けた取り組みについて紹介する。
第56回 気候変動による北海道のバレイショへの影響の検討 (菅原 邦泰)
気候変動による影響は農業にも表れると予想される.その中でも,農業を基幹産業としている北海道はその影響を特に受けると考えられる.本講演では,気候変動の多アンサンブルデータベースであるd4PDF/d2PDFを用いて,北海道における主要農作物の一つであるバレイショへの気候変動の影響を議論する.
第55回 類似法を用いた降水確率分布の予測 (金盛 友香)
統計的ダウンスケーリングの手法である類似法を用いて、札幌における大雨の降水量の確率分布の予測を試みる。JRA55のQ850とSLPのデータを用いて、札幌で豪雨となった1981年8月23日や2014年9月11日の降水量の確率分布を予測する。
第54回 冬季北海道を対象とした気象モデルの地上観測との比較による降雪粒子の雲微物理特性の検証(近藤 誠)
降雪イベントにおいてどのような降雪種が存在しているかは雪崩や視程に影響を与える。しかし気象モデルにおける降雪の雲微物理過程の再現性は依然高くはない。本研究では気象予報にも用いられているバルク法の雲微物理スキームを複数用いて冬季北海道を対象として数値実験をし、地上観測との比較によってその感度の検証を行った。
第53回 3次元格子ボルツマン法を用いた防雪柵まわりに発生する吹きだまり分布の推定 (丹治 星河)
冬季の北海道では,道路に発生する吹きだまりの対策として防雪柵が各所に設置されている.しかし,吹きだまり緩和に最適な防雪柵の構造はわかっていないため,設置されている防雪柵は十分なパフォーマンスを発揮できていない.そこで本研究では,吹きだまり分布を求める方法として,3次元格子ボルツマン法による数値シミュレーションを提案する.
第52回 気象庁における数値予報 (石田 純一・札幌管区気象台)
気象庁では防災気象情報や天気予報の発表のために数値予報を用いている。 気象庁において運用している数値予報の概要と目的、また今後の気象庁が重点的に取り組んでいく計画などについて紹介する。
第51回 夏季の北海道における暑熱環境の変化(髙畠 大地)
地球温暖化により夏季の北海道において高温多湿化や熱帯夜の増加が予想される.環境省では熱中症予防に有効な指数である暑さ指数(WBGT)を日々発信している.本講演では、多アンサンブルデータベースであるd4PDF/d2PDFを用いて夏季北海道のWBGTおよび熱帯夜の変化について示す.
第50回 台風周辺の雷にエアロゾルが与える影響評価(佐藤 陽祐)
本研究では雷を直接考慮した数値気象モデルにより台風周辺の雷にエアロゾルが与える影響を評価した。雷を直接考慮した数値実験を行うために、数値気象モデルSCALEを雷が直接計算できるように拡張した。この拡張したSCALEを用いて、理想化された台風を対象とした数値実験を行い、エアロゾルが台風を構成する積乱雲の雲粒電荷分布に与える影響を評価した。数値実験の結果から、エアロゾル数濃度が低い〜中程度の時には台風内部の雲粒電荷は下層から正→負→正という3極の分布となっていた。一方、エアロゾル数濃度が高い時には負→正の2極分布となった。また、2極分布の時の方が雷の頻度が多くなり、エアロゾルが雲粒の電荷のみならず雷にも大きな影響を与えていることが示唆された。発表ではSCALEに実装した雷モデルの簡単な説明も行う。
第49回 混合確率分布を使った粒径・落下速度分布へのフィッティング(勝山 祐太)
降水粒子の粒径・落下速度観測からは基本的な雲物理パラメータを得ることができ,近年は自動観測により大量のデータが蓄積されつつある.しかし,粒径・落下速度の観測には大きな測定誤差が含まれることがあるほか,複数種類の降水粒子が同時に観測されることが多いため,経験式に単純にフィッティングできないことが多い.本研究では,粒径・落下速度分布を二変数の混合確率分布として扱うことで汎用的に粒径・落下速度データにフィッティングする方法を提案する.
第48回 吹雪による高速道路の通行止めと気象場の関係(稲津 將)
NEXCO東日本研究助成により吹雪による視界不良が原因となった高速道路の通行止と、道央圏の水平風・気温、および総観測場の関係について調査している。力学的ダウンスケーリングの解析と合わせ、中間的な報告を行う。
第47回 台風の急発達の開始メカニズム(宮本 佳明・慶応義塾大学)
強い強度を持つ熱帯低気圧(台風)の多くが、その生涯に一度は急激に発達する過程(Rapid Intensification: RI)を経験する。一度RIが始まれば強い強度まで発達するため、RI開始の予測が非常に重要であり、即ち、RIが開始するメカニズムの理解が重要になる。この面からも、RIは台風研究において近年最も盛んに研究されるトピックの一つであるが、多くの研究が行われているにも関わらず、普遍的なメカニズムは未だ不明である。今回の発表では、RIに関する最新の研究のまとめから、発表者らによる研究を紹介する。
第46回 宇宙からの雷放電の観測(牛尾 知雄・首都大学東京)
宇宙から雷放電が観測可能なことが1960年代にアメリカの衛星観測によって明らかになって以来,幾つかの低軌道衛星が打ち上げられ,静止軌道からの雷放電観測が運用段階に入ろうしている.ここでは,宇宙からの雷放電観測の意義,方法,代表的成果,今後について概観する.
第45回 Analog methodを用いた集中豪雨の予測について(金盛 友香)
統計的ダウンスケーリングの手法の一つであるAnalog method(類似法)を用いた降水予測について紹介する。集中豪雨の予測に関する卒業研究に向けた展望を述べる。
第44回 数値シミュレーションと降雪粒子観測の比較に向けた数値実験〜SCALEをもちいた雲微物理スキーム間の比較〜(近藤 誠)
雲微物理のシミュレーションにおいて氷に関する雲微物理の再現性は検証が不十分である。卒業論文ではSCALEを用いた冬季北海道を対象とした降雪のシミュレーションと本研究室で行われている降雪粒子の観測との比較と検証を目的としてる。本発表では先行研究の紹介と共に石狩地域を対象とした降雪のシミュレーションと雲微物理モデルの感度について初期解析結果を提示する。
第43回 エアロゾルのポテンシャル?ー「環境汚染」と「気象変化」について(梶野 瑞王・気象研究所 )
エアロゾルによる環境汚染(PM2.5、光化学オキシダント、黄砂、酸性雨、放射性物質)と気象変化(エアロゾルー雲ー降水相互作用、エアロゾルー放射ー成層相互作用)についてエアロゾルの基礎的な話から近年の研究成果も含めて包括的な話をしたいと思います。
第42回 気温の変化に伴う北海道での降雨の変化~気象学と地形学との一つの接点~(古市 剛久)
地形変化(土砂移動と同時に起る連鎖現象)は降雨の影響を強く受ける.地形変化に関する過去のイベントの分析や将来へ向けた予測では,降雨の特徴がどのように変化してきたか,どのように変化していくかを理解し推測することが一つの鍵である.本発表では,降雨の強度,頻度,空間パターンが気温変化によってどのように変化するかを推定する手法の一つを概説し,この推定が,過去から現在の地形形成や現在から将来への地形変化の検討に対してどのようなインパクト(意義)を持つのかについて考える.
第41回 地球系の放射過程と関連する気候問題について(中島 映至・宇宙航空研究開発機構)
地球系は、太陽から太陽放射エネルギーを受けて温められる結果、物質から熱赤外放射が射出され、それが宇宙空間に散逸することにより、その状態(気候)を維持している。ここではこのような放射伝達過程の知識と、それを応用したリモートセンシングと気候の関連する問題を議論する。
第40回 北海道における夏季降水帯の将来予測に向けて(高畠 大地)
北海道では、梅雨前線の北上・停滞により、たびたび被害を受ける。昨年の「平成30年7月豪雨」では、上川地方を中心に降水量が観測1位となり、また石狩川水系の河川が氾濫するなどの被害が出た。本研究では将来、梅雨前線が北上し北海道上で停滞するというイベントがどの程度、発生するのかを評価する。本講演では、その第一段階として「比湿」という側面から議論する。
第39回 気象庁1か月アンサンブル予報におけるオホーツク海高気圧発生の予測可能性(菅原 邦泰)
5~8月に発生するオホーツク海高気圧は北海道に異常低温をもたらすことがある。この異常低温は農作物の生育を阻害することもあり、社会的な影響も大きい。本講演では気象庁の1か月アンサンブル予報を用いてオホーツク海高気圧の予測可能性および予測因子について調査した結果を発表する。
第38回 吹雪発生時の高速道路における視程障害・吹きだまり量の推定(丹治 星河)
吹雪に伴う視程障害や吹きだまりの形成は,北海道など冬季積雪地域における重大な交通障害をもたらし,高速道路では通行止めが何度も施行される.吹雪の主因は地表風であり,吹雪はしばしば1km以下スケールの狭い範囲でのみ起こることが知られている.よって,気象データから吹雪を再現するためには1km程度の解像度のデータが必要である.本研究では,力学的ダウンスケーリングにより1km解像度の気象データを作成し,このデータを使って吹雪の発生可能性および視程を推定した.対象期間は,2018-2019年冬季において通行止めが施行された吹雪事例である.通行止め情報はNEXCO東日本より提供していただいた. また,この研究とは別に,吹雪に伴う道路周りにおける吹きだまり形成をシミュレーションするモデルを現在作成している.その途中経過についても説明する.
第37回 地球温暖化および圧雪による土壌凍結への影響(勝山 祐太)
圧雪は積雪の断熱効果を弱めるため,土壌凍結を促進する効果があるほか,それによる生態系への影響も指摘されている.また,地球温暖化は,積雪の湿雪化を促進するため,積雪の断熱効果は将来弱くなる可能性がある.一方で,地球温暖化による気温上昇により,土壌凍結深は大幅に減少する可能性も指摘されている.本研究では,1990年代と全球平均気温2K上昇年代の地球温暖化予測データを積雪変質モデルSNOWPACKの入力値とすることで,北海道十勝地方を対象に,温暖化による積雪の湿雪化を考慮したうえで土壌凍結深の将来変化を推定した.また,圧雪の土壌凍結への効果が今後どのようになるかについても検討した.
第36回 気象・気候モデルを用いた雲・エアロゾル・雷の数値実験の取り組み(佐藤 陽祐)
雲は水循環や放射過程を介して、地球のエネルギー収支に大きな影響を及ぼす。この雲と、雲の形成に密接に関わる大気中の微粒子(エアロゾル)の特性を理解するために数値実験(シミュレーション)が用いられる。近年の計算機能力の飛躍的な向上によって、数値実験は室内実験や観測、さらには理論研究に続く研究の柱として確立されつつある。本発表では、発表者の佐藤がこれまでの研究で取り組んできたエアロゾルや雲、さらにはそれらに関連する様々な要素(例えば、化学物質や放射性物質)や現象(雷など)に関する数値実験の結果、数値モデル(シミュレーションコード)の開発の概要などにについて紹介する。
第35回 新年度にあたり相談会(稲津 將)

ページの先頭へ

2018年度 第16回~第34回
第34回 日本列島における極端事象の将来変化について(岡田 靖子・海洋開発研究機構)
異常高温や大雨といった事象は発生頻度が稀であるためサンプル数に限りがある.信頼性の高い予測結果を得るためにはデータ数を増やすことが必要不可欠である.本研究では,そのような低頻度事象について十分なサンプル数を得ることが可能である大規模アンサンブルデータセットd4PDFを用いて,日本列島における気温および降水量の低頻度事象の将来変化について調査した.本研究では,特定の地点のような狭い領域における20km格子間隔データセットの活用および極端事象の将来変化や不確実性に焦点をあてて紹介する予定である.
自己組織化マップを用いた東北地方における極端低温の将来予測(川添 祥・海洋開発研究機構)
東日本の夏季気候で定期的に発生する低温現象の大きな要因としては、南西風のヤマセがもたらす下層雲増加・日射不足の影響だと数多くの先行研究にて報告されている。しかし、温暖化時のヤマセ関連研究は極めて少ない為、本研究ではd4PDF大規模アンサンブルを活用し、近未来(2℃昇温実験)・世紀末(4℃昇温実験)世界の将来変化を検証した。解析手法としてはクラスター分類法の一つである自己組織化マップを使用し、極端な低温をもたらす大気循環をいくつかの海面気圧パターンに分け、それらの将来変化傾向を様々な観点から調べた。セミナーではこれらの解析によって得られた結果を紹介する。
第33回 梅雨前線の将来予測に向けて(高畠 大地)
2018年6月28日から7月8日にかけて梅雨前線と台風第7号の影響により温かく非常に湿った空気が供給され続け、西日本を中心に広い範囲で記録的な大雨となった(平成30年7月豪雨)。北海道においても留萌から大雪山系にかけてのいくつかのアメダスでは降水量が観測1位を記録し、石狩川中流域の本流、支流が氾濫することで住宅、農地へ大きな被害を出した。気象庁では北海道には梅雨はないとしているが、本年や56水害(昭和56年)のように梅雨前線の北上に伴って前線本体が北海道上に停滞することはときどきある。本研究では、そのようなイベントがどの頻度で起こるか、そして将来、地球温暖化でどのように推移するのかを調べる。本講演では、初段階として平成30年7月豪雨についてJRA-55を用いた解析について発表する。
1か月予報におけるオホーツク海高気圧と冷害の予測可能性(菅原 邦泰)
5~8月の北海道における異常低温は主にオホーツク海高気圧の影響によって発生する.この異常低温が続くことで農作物は冷害の被害を受ける.特にその影響はオホーツク海に近い網走や根室で大きい.本講演では気象庁の1か月アンサンブル予報を用いてオホーツク海高気圧の予測可能性および予測可能因子について、二つの事例に焦点を当てて調査した結果および今後の方針について発表する.
第32回 格子ボルツマン法を用いた吹きだまり形成のシミュレーション(丹治 星河)
先週札幌でも本格的に雪が積もり遅めの雪景色となったが,この時期に注意したいのは吹雪に伴う視程悪化や吹きだまりによる事故である.特に吹雪によって形成される吹きだまりは,一度道路に広がると人や物の移動の妨げになるほか,立ち往生の原因ともなり非常に危険である.このような吹きだまり形成に対するシミュレーションには,乱流を含む風のシミュレーションが必要不可欠とされている.従来の研究ではRANSやLESを用いたシミュ レーションが行われていきたが,時間的・空間的に激しく変化する乱流や積雪面を十分に表せず,正確な吹きだまりの再現には至らなかった.そこで本研究では乱流を格子ボルツマン法によって求め,その結果を吹きだまり形成に応用する.今回はその前提として,格子ボルツマン法という計算方法について解説し,格子ボルツマン法でシミュレーションした様々な構造物周りの風の場を紹介する.
第31回 シラカバ花粉の放出量と気温変動率の関係性について(狩野 翔太)
シラカバ花粉の飛散予測を高精度に行うには、シラカバ花粉の放出量と放出タイミングの決定が必要であり、本研究の目的は気象要素を用いたシラカバ花粉の日放出量の決定である。一方、川島(2017)では、前時刻から気温がどれだけ変化したか、すなわち気温変動率が花粉放出量に関係することが示唆された。そこで、本講演ではシラカバ花粉放出量と気温変動率の関係性についての調査結果を示し、その考察と今後の方針について発表する。
第30回 ISSW2018報告(勝山 祐太)
International Snow Science Workshop(ISSW)が2018年10月にオーストラリア・インスブルックで開催された。ISSWは、"A merging of theory and practice"をスローガンとし、理論と実践の融合を目標とした国際会議である。そのため、雪の研究者だけでなく道路・鉄道・スキー場管理者などの現場の関係者も多く参加することが特徴的である。今回は、このISSWへの参加報告を行う。
第29回 夏季九州における集中豪雨に対する流出応答(玉置 雄大)
降水強度,総降水量,継続時間は河川の流出特性に影響する.降水強度,総降水量に対する流出応答を評価した研究は多いが(例えばChen et al. 2013),降水継続時間に対する流出応答を評価した研究は,仮想の降水時系列を用いた研究のみにとどまる(Bezak et al. 2018). 一方でTamaki et al. (2018)は大雨をもたらす気象場によって降水継続時間の長さ,モデルバイアスが異なることを発見した.そこで本研究では夏季九州に大雨をもたらす代表的な台風豪雨(2007年台風4号),梅雨豪雨(2012年九州北部豪雨)の2事例を対象にタンクモデルを用いて降水継続継続時間に対する流出応答を評価する.
第28回 大気ブロッキング発達の診断法(稲津 將)
10日程度の持続性をもつ大気ブロッキングは中高緯度の予測可能性に重要な気象である。その発達の原因として低周波・高周波の渦フラックス収束の効果があるとされている。しかし、予測データにその診断をしようとすると、未来時間のデータにフィルタを適用する必要がある。本研究ではまず、準地衡系で行われているモード展開法をプリミティブ系に拡張し、モード方程式を導出する。その後、Barriopedroに従い定義したブロッキング事例の合成として、ブロッキングをZ500主成分の線型結合の持続として再定義する。これにより、導出したモード方程式によるブロッキング診断が可能になる。本研究では予測データを使わず、あくまで再解析データでの診断を行う。
第27回 新学期開始にあたり相談会(稲津 將)
第26回 人工雪崩実験と吹雪の高密度観測(西村 浩一・名古屋大学)
地球規模の温暖化の進行が叫ばれる一方、日本はここ数年、平成18年豪雪に匹敵する大雪に見舞われ、雪崩による人身事故や交通障害、森林や建物、橋梁の破壊、さらには吹雪による多重衝突事故、多数の車両の立ち往生、吹きだまりへの埋没等が報告されている。また2014年2月中旬に本州太平洋岸に接近・通過した低気圧は、「非雪国」である関東甲信地方を中心に記録的な大雪をもたらし、この時に発生した膨大な数の雪崩は、家屋や構造物への被害に加え、至る所で交通障害や集落の孤立を引き起こしたことは記憶に新しい。IPCCの最新の報告では、こうした極端気象によりもたらされる豪雪は今後も増加する可能性が指摘されている。上記の背景のもと、我々は雪 崩の包括的データの取得を目的として、国内ではおよそ25年ぶりとなる組織的なフルスケール雪崩実験(通称:平成雪崩大実験)を北海道のニセコで開始した。またこれと併行して石狩の広大な平坦地に総計16台のスノーパーティクルカウンター(SPC)と3次元超音波風向風速計を設置して、吹雪の時空間変動と乱流構造に関わるデータを取得した。セミナーではこれらの試みについて紹介する。
第25回 陸面モデルを用いた集中豪雨の時間構造に対する流出応答(玉置 雄大)
河川の流出特性は降水強度,総降水量,継続時間に依存する.降水強度,総降水量に対する流出応答を評価した研究は多いが(例えばChen et al. 2013),降水継続時間に対する流出応答を評価した研究は,仮想の降水時系列を用いた研究のみにとどまる(Bezak et al. 2018). 一方でTamaki et al. (2018)は大雨をもたらす気象場によって降水継続時間のバイアスが異なることを発見した.そこで本研究ではモデルで継続時間バイアスが特に過大であった代表的な豪雨事例を対象に,陸面モデルを用いて異なる気象場の降水継続時間に対する流出応答を評価する.
第24回 シラカバ花粉の飛散予測における花粉放出量と放出タイミングの決定について(狩野 翔太)
シラカバ花粉症の対策には花粉の飛散予測が有用であるが、その予測には気温・降水・風などの気象要素による花粉放出量および放出タイミングの決定が重要となる。本研究の目的は、シラカバ花粉の飛散予測シミュレーションに花粉放出量や放出タイミングの決定モデルを組み込むことである。本講演では、花粉放出量と放出タイミングについて述べられているSofiev et al.(2013)などの関連論文をレビューし、今後の展望について紹介する。
第23回 S2Sプロジェクトのデータを用いたダウンスケーリング予報の農業気象への応用に向けて(菅原 邦泰)
S2S(季節内季節間予測)プロジェクトでは、中期予報と季節予報がそれぞれ対象とする時間スケールの中間にある1か月予報を対象としている。本研究ではS2Sプロジェクトにおけるデータに統計的ダウンスケーリングを用いることで農業気象の予報へ応用することを目標としている。本講演では関連論文であるXue et al.(2014)とNemoto et al.(2016)をレビューし、今後の研究の展望について発表する。
第22回 気象観測のデータレスキューから明らかにする台風の長期変動(久保田 尚之・北海道大学)
風の変動を明らかにするには、長期にわたる気象観測データ、台風経路データが欠かせない。気象庁の台風統計資料の台風経路のベストトラックデータは1951年からまとめられている。一方で1951年以前も気象観測データや台風経路データは存在するものの、現在と同じ基準で議論できないため、これまで台風に関して整備されてこなかった。現在、「データレスキュー」と呼ばれる図書館などに埋もれてこれまで利用されていなかった気象資料を復元して過去の気象や気候を明らかにする研究手法に取り組んでいる。本研究では台風に着目し、西部北太平洋域で発生した台風を19世紀まで遡って復元し、その長期変動や類似台風の事例について報告する。
第21回 台風トラッキング手法の現状と開発(稲津 將)
低気圧トラッキングとはデータ中の極値点の追跡であり、その方法は各種提案されている。台風に限定すると、併合・分裂あるいは高速移動がない分、追跡自体は容易だが、温帯低気圧との区別に工夫が要る。通常は鉛直シアや暖気核の条件を追加する。本講演ではBengtsson et al. (1995)が開発した手法の問題点を明らかにし、Satake et al. (2013)での改善点を考察する。
第20回 北海道全域における複数の力学的ダウンスケーリングに基づいた積雪の地球温暖化に対する応答(勝山 祐太)
本研究では,複数の全球気候モデル(GCM)から力学的にダウンスケーリングされたデータを最新の積雪変質モデル(SNOWPACK)の入力値とすることで,積雪の地球温暖化に対する応答を調べた.その結果,温暖化による融雪量の増加は少なかったが,北海道東部と後志地方で降雪量の大幅な減少が見られた.降雪量の減少により,年最大積雪深と年最大水当量は30%程度減少した.積雪日数は北海道全域で1ヶ月程度減少した.また,温暖化により,北海道の広い範囲でざらめ雪が卓越するようになり,北海道東部のしもざらめ雪は減少した.さらに,自己組織化マップを用いた解析により,GCM間のばらつきが大きいものの,降雪量の減少は主に冬季モンスーンによる降雪の変化が原因となっている可能性が分かった.
第19回 力学的ダウンスケーリングに基づく吹雪の発生可能性の事例解析 (丹治 星河)
吹雪は視程悪化や吹きだまり・雪庇を発生させ交通障害や雪崩の原因となるため,その発生予測は重要な課題である.しかし,吹雪が発生する数十mスケールの乱流場の計算は高負荷であるため,吹雪発生をコンピュータで正確に計算し予測することは困難であった.そこで,メソ数値予報モデルの解析値に対しラージエディーシミュレーションを用いた力学的ダウンスケーリングを施すことで得た高解像度の気象データと,従来の研究に基づいた式を使って広域における雪粒子空間濃度と視程を求めた.これらの事例解析の結果を説明する.
第18回 アンサンブルスプレッドによる予報ガイダンスの精度向上手法(相河 卓哉)
予報ガイダンスとは、数値予報が持つ誤差を統計的に推測することで数値予報の生のデータより精度を高くしたデータのことである。この処理によってモデルと現実で地形が異なることなどによる影響が軽減されたデータが提供されている。しかし以前から、モデルが予報を大きく外した際に過学習によりガイダンスの精度が低下することが指摘されていた。本研究ではアンサンブル予報のスプレッドを予報の精度と考えることで、予報の精度が悪いときには学習を抑制しガイダンスの精度悪化を軽減しようと試みた。その実験段階としてLorenz 96モデルに適用し、一定の成果が得られた。
第17回 北海道における気候変動適応社会実装の実例~北海道大学・北海道開発局・北海道庁の取り組み~(稲津 將)
平成28年8月に北海道に大きな被害をもたらした台風上陸・接近を契機に今後の水防災対策のあり方を検討するため、北海道地方における気候変動予測(水分野)技術検討委員会を設置が設置された。本検討は北海道開発局・北海道庁・北海道大学が実施し、d4PDF-20kmの過去実験および4K実験から力学的ダウンスケーリング計算 によって、洪水リスクがあるケースの流域降雨の詳細計算を実施した。計算は十勝川・常呂川の流域雨量が年降水を記録したケースに限定し、計算結果に対してバイアス補正を実施した。リサンプリングを利用した一般化極値分布への当てはめの結果、4K実験と過去実験の確率降雨の信頼区間が重複しており、将来の豪雨は現在気候においても発生する可能性があることがわかった。タンクモデルを用いた流出計算により、将来気候では2016年の洪水量を上回る洪水が増加し、特に常呂川で顕著であることがわかった。降雨・流量例から氾濫計算を行い、浸水・死者リスクを評価した。十 勝川・常呂川ともに気候変動リスクの増大が明らかになった。
第16回 新年度にあたり相談会(稲津 將)

ページの先頭へ

2017年度 第1回~第15回
第15回 札幌におけるシラカバ花粉の飛散シミュレーション(吉田 遼)
シラカバ花粉はシラカバ花粉症を引き起こす原因物質である。シラカバ花粉の飛散シミュレーションを行うことは、シラカバ花粉症患者にとって重要である。そこで2010年と2011年を対象に飛散シミュレーションを行った。本発表では飛散シミュレーションの結果について紹介する.
第14回 冬季中緯度における雲量の季節内変動特性(佐藤 令於奈・福岡大学)
冬季中緯度における雲量の季節内変動成分の空間位相構造を、循環場の変動と関連付けて調べた。日本周辺において、雲量の極大は、500hPa等圧面高度によく代表される高度場の季節内変動成分のトラフ東方に位置していた。セミナーでは、雲量と高度場の位相構造の経度・高度依存性について詳しく述べる。
第13回 理想化実験をつかったストームトラック形成(稲津 將)
発表者が1999年から2003年ころまで実施した理想化実験による研究をレビューする。熱帯と中緯度海面水温の東西分布が作り出すストーム活動度の東西非一様性の形成メカニズムに焦点を当てる。熱帯海面水温分布は発散風を介して中高緯度の定常波の強制源となっており、その定常波に伴って生じる傾圧性分布がストーム活動度を制御していることが分かった。一方、中緯度海面水温分布は下層の傾圧性を直接制御することでストーム活動度に東西非一様性を与えることが分かった。
第12回 降雪粒子観測とその結果の中間報告(勝山 祐太)
重要な地上微物理量の一つである降雪粒子の粒径・落下速度を自動観測する測器を開発し,2016/17年冬に試験的に観測を行った.本セミナーでは,測器の開発から現在得られている観測結果について報告し,現状の問題点を議論する.
第11回 データ同化の基礎とLorenzモデルに対するカルマンフィルタの適用(相河 卓哉)
8月に日本海洋科学振興財団によって開催された第21回データ同化夏の学校に参加し、データ同化の基礎について学び数値モデルに対してそれを適用する演習を行った。今回のセミナーではそのデータ同化の基礎と、演習として取り組んだ、Lorenzモデルに対するカルマンフィルタの実装について発表する。
第10回 吹雪による吹き溜まり形成のシミュレーション(丹治 星河)
吹雪によって形成される吹き溜まりは、交通障害などの原因となり甚大な被害が出ることもある。この被害を防ぐために近年では吹き溜まり形成のシミュレーション技術が研究されているので、関連する論文をレビューする。また、先日寒地土木研究所を訪問させていただいた際に見聞きしたことを報告する。
第9回 火山噴火における降灰予測のモデル(越石 健太)
火山の噴火における降灰予測は、噴火によって放出された火砕物の運動を追跡し、降灰量や降灰域を予測するものである。現在どのようなモデルのもとで計算がされているのかを調べ、噴火から降灰予測までの流れに沿って解説する。
第8回 札幌におけるシラカバ花粉の飛散期間と移流拡散のシミュレーション(吉田 遼)
シラカバ花粉はシラカバ花粉症を引き起こす原因物質であり、シラカバ花粉の移流拡散をシミュレーションすることは、シラカバ花粉症患者にとって重要である。移流拡散シミュレーションを行うためには飛散期間、移流拡散モデル、およびシラカバ森林分布図が必要になるが、札幌におけるシラカバ森林分布図は存在しない。本発表ではシラカバ森林分布図の作成方法について紹介する。
第7回 成層圏突然昇温に関するいくつかの研究の紹介(稲津 將)
成層圏突然昇温とは成層圏極域において冬季に数日スケールで気温が急上昇する現象であり、極渦の変形または分裂を伴うものである。この力学的メカニズムはすでに解明されているが、予測可能性や温暖化応答など、最近行われているいくつかの研究を紹介する予定である。
第6回 北海道全域における複数の力学的ダウンスケーリングに基づいた積雪の地球温暖化に対する応答(勝山 祐太)
本研究では,複数の全球気候モデル(GCM)から力学的にダウンスケーリングさ れたデータを最新の積雪変質モデル(SNOWPACK)の入力値とすることで,積雪の地球温暖化に対する応答を調べた.その結果,北海道全域で大幅な積雪減少や雪質の変化が求められた.また,GCMの結果に含まれる将来予測の不確実性が積雪の将来予測にどのような影響を与えるかについても評価した.
第5回 夏季九州における力学的ダウンスケーリングの強降水継続時間のバイアスとそれに関係する総観場(玉置 雄大)
力学的ダウンスケーリングによって出力される降水データにはバイアスが存在する.従来の降水のバイアス補正は降水強度を補正する手法な主であるが,降水継続時間に注目したバイアス補正手法はほとんど存在せず,モデルの継続時間のバイアスはどの程度あるのかはわかっていない.本研究では夏季九州を対象に力学的ダウンスケーリング出力と観測の1時間降水量を用いて,大雨日における降水継続時間のバイアスを卓越する総観場毎に評価することを試みる.
第4回 MJO相空間における新たな予測可能性推定手法の開発とそのマルチモデル予報への適用 (市川 悠衣子)
本研究では,マッデン=ジュリアン振動(MJO)相空間において完全モデルの仮定を用いずに予測可能性を推定する手法を提案する.この手法は観測値の集団の平均的な予測可能性の推定を行う.そのために理論的な検討に基づいて,解析値の集団とアンサンブル平均予報の間の共分散が初期値依存性誤差に関連付けられる.完全モデルの仮定を用いないため,マルチモデル予報に適用することも可能である.ここでは手法の紹介とともに,Subseasonal to seasonal (S2S) prediction projectによって収集されたECMWF,JMAとNCEPのGCMに新しい手法を適用した結果について話す.
第3回 ブロッキング形成過程における渦度収支解析(相河 卓哉)
第2回 放射性物質拡散予測と地域防災計画(稲津 將)
第1回 気象学研究室新設にあたり相談会