では,赤道での海洋上層の水温が,1997/98年のエル・ニーニョでどのように変化したのかを検討してみましょう.アニメーション2は,アニーメーション1と同じ上段と中段に加えて,赤道直下の深度0-400 mで水温の偏差がどのように変わったかを下段に示しています.

アニメーション自体の説明の前に,下段の海洋の平年的な年平均密度を示しているのかを説明せいましょう.その理由は,海の中で密度が急激に変わるとこに,海の中の波の伝播がある程度とらえられるためです.たとえば極端な例では,池の水は表面を伝わっていきますけれど,あの波の伝播は水と大気という非常に密度が異なる2つの流体の境界面を進んで行くと考えることができます.海の中ではそれほど極端に密度が違うわけではなく,たかだか0.1%の桁でしかないのですけれど,やはり密度が大きく変わるところに,波が捕捉される傾向があります.

さて本題に戻って,赤道直下での亜表層での水温偏差の時間発展を説明しましょう.亜表層水温では,実は表面での水温変化の数ヶ月前の1996年10月頃から,160Eで温度上昇が始まっています.この温度上昇が1997年3月に東に伸びることで,赤道東太平洋での水温上昇が引き起こされています.つまり,水温上昇の種が東太平洋にあるとアニメーション1で見えたのは,表面だけを見ていたためで,海の中を見ると160E付近の西太平洋で数ヶ月前に水温上昇が始まっていることが分かります.

また,1997年5月には,西太平洋の160E付近で,冷たい水温偏差が生じており,これが発展して東に進んで,1998年5月にはNino34に冷たい水温偏差をもたらしています.この冷たい水温偏差の種が発生した1997年5月は,エル・ニーニョが最盛期となる1997年10月の5ヶ月も前です.どうやら,エル・ニーニョの種は海の中にあるようです.

アニメーション2. アニメーション1と同じ,ただし赤道における深度0-400 mでの水温偏差を下段に加えている.下段の緑の等高線は,海洋中の密度から1000を引いたものである.例えば,24と表示されている線は密度が1024 kg m-3である.なお,上段はNino34領域での表面水温偏差の時系列,中断は表面水温偏差の水平分布である.

1997/98エルニーニョの海洋表面水温と赤道での0-400m水温の時間発展