主な研究


海洋ジェットの変動

北太平洋の黒潮続流や北大西洋のメキシコ湾流は,世界でも有数の流量を持つ西岸境界流です. これらの海流の位置や強さは経年から十年程度の時間スケールで変動しており,海洋生態系や中緯度の大気に影響を与えます. この海洋ジェットの変動について,新しいメカニズムであるjet-trappedロスビー波を提案し, 黒潮続流とメキシコ湾流の変動を良く説明できることを示しました(Sasaki and Schineider 2011ab; Sasaki et al. 2013). 図1はそのjet-trappedロスビー波の西方伝播の様子を示しており,北太平洋東部上空での大気変動により生じた海面水位変化が, 海洋ジェットに捕捉され西方に伝播しています.これらの研究成果で2015年度日本海洋学会岡田賞を受賞しました.

図1: 北太平洋東部に生じた変動が西方伝播する様子. カラーは黒潮続流域における海面水位の第1主成分時系列に対する回帰係数で,等値線は対応する相関係数が統計的に有意な領域を表す. それぞれ黒潮続流ジェットが変動する(a)3年前,(b)2年前,(c)1年前,(d)同時期.(Sasaki et al. 2013より)

中緯度域の大気海洋相互作用

近年,中緯度海洋が大気に与える影響が注目されています.特に黒潮やメキシコ湾流といった暖流が流れる領域では, 海面水温の勾配が大きい領域(海面水温フロント)が形成され,大気に強い影響を与えます. 観測データと領域大気モデルを用いた解析から,東シナ海の黒潮に伴う海面水温フロントは 上空の梅雨前線を強化することを示しました(図2).

図2: 領域大気モデルによる6月の降水量(mm/day)で(a)標準実験,(b)海面水温フロントを除去した実験,(c)両者の差. 等値線は海面水温を示す.(Sasaki et al. 2012より)


また,この黒潮に伴う海面水温フロントの年毎の強さの違いが, 梅雨前線の年毎の降水の強さに影響を与えることを明らかにしました(Sasaki and Yamada 2018). 黒潮に伴う海面水温フロントが強い(弱い)年には,気象擾乱の強化(弱化)を通じて, 東シナ海上から日本南部で降水量が増加(減少)します(図3).

図3: 6月の海面水温フロントが強い年の海面水温の平年値からの差(左)と, 降水量の平年値の差(右).等値線は信頼度90%で統計的に有意な領域を示す. 東シナ海の大陸棚上の水温が低い年に海面水温フロントが強く,その結果,東シナ海から 九州南部にかけての降水量が増加する.(Sasaki and Yamada 2018より)

日本周辺の海面水位上昇

海面水位の変動は沿岸の人間生活や環境に大きな影響を与え, 特に近年は地球温暖化に伴う海面水位上昇が問題となっています. これまで北太平洋,特に日本周辺の海面水位に注目した研究を行い, 近年の北太平洋西部での顕著な海面水位上昇が黒潮続流の北上によることを示し, これに伴い日本南東岸(関東,東海地方)で顕著な沿岸水位変動が生じることを明らかにしました(図4). また,20世紀全体の北太平洋の海面水位変動について領域海洋モデルを用いたシミュレーションを行い, 1950年付近の日本沿岸の高水位が風の変動によることを示しました(Sasaki et al. 2017). このほか領域海洋モデルを用いた将来の北太平洋の海面水位上昇についてのシミュレーションも 行っています(Liu et al. 2016).

図4: 潮位計データから求めた黒潮続流の北上に対する日本の沿岸水位の変化. 西日本の水位が上昇し,特に日本南東岸(関東,東海地方)での水位上昇が大きい. (Sasaki et al. 2014より)

日本周辺の海の温暖化

大気の温暖化と同様に,海洋も温暖化しています.しかしその温暖化のスピードは 空間的に一様ではありません.これまで日本周辺の海洋に注目した解析を行い,Sasaki and Umeda (2021)では 高解像度の領域海洋モデルを用いたシミュレーションを行い,20世紀の東シナ海の海面水温の温暖化の振幅は 黒潮流軸付近と中国沿岸の大陸棚上の2か所で大きいことを示しました(図5a).またこの水温上昇のメカニズムを さらに詳細に調べるため追加の数値実験を行い,中国沿岸域の水温上昇は 東シナ海城の大気変動によって生じている(図5c)が,黒潮流軸付近の水温上昇は東シナ海ではなく 北太平洋上の大気変動の影響によって生じていることを明らかにしました(図5b).

図5: 領域海洋モデルで求めた1901〜2010年の海面水温のトレンド. それぞれ(a)標準実験,(b)表面境界条件を気候値とし,側面境界条件がモデル内のトレンドを生じる実験, (c)側面境界条件を気候値とし,表面境界条件がモデル内のトレンドを生じる実験である. (Sasaki and Umeda 2021より)

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