1. 地球内部の地震学的研究
地震波トモグラフィーとマントルダイナミクス
地震や火山噴火,その原動力であるプレート運動を理解するには,直接観測できない地球内部の構造や状態に関する情報が不可欠です.日本をはじめ世界各地に展開された多数の地震観測点で記録された地震波形を解析することで,地球内部の3次元構造を復元することができます.当研究室では,独自の地震波トモグラフィー技術を用い,地下の3次元的不均質構造に加え,異方性分布や不連続面分布の推定を行っています.最新の地震観測記録に基づくこれらの研究を通じて,プレートの生成・移動・沈み込みの主要な場である地殻から上部マントルにおいて生じる物理現象の解明を目指しています.
図1:ユーラシア大陸のS波速度モデル
図2:太平洋地域のS波速度モデル主な参考文献:
- Ganbat, B., Yoshizawa, K., et al. (2024), Upper mantle structure beneath the Mongolian region from multi-mode surface waves: Implications for the western margin of Amurian plate, Tectonophys, 230506. 10.1016/j.tecto.2024.230506
- Isse, T., Kawakatsu, H., Yoshizawa, K., et al. (2019), Surface wave tomography for the Pacific Ocean incorporating seafloor seismic observations and plate thermal evolution, Earth Planet. Sci. Lett., 510, 116–130. 10.1016/j.epsl.2018.12.033
- Yoshizawa, K. (2014), Radially anisotropic 3-D shear wave structure of the Australian lithosphere and asthenosphere from multi-mode surface waves, Phys. Earth Planet. Inter., 235, 33-48. 10.1016/j.pepi.2014.07.008
リソスフェア−アセノスフェア境界/地球内部の不連続面
固いプレート(リソスフェア)の下には,高温で柔らかいアセノスフェアが存在し,これによりプレートは水平移動することができます.両者の境界であるリソスフェア−アセノスフェア境界(LAB)は,海洋域では明瞭な地震波速度変化として観測される一方,安定大陸下では漸移的で不明瞭な場合が多く見られます.当研究室では,プレート運動の理解に不可欠なLABの詳細な空間分布の推定を行っています.
さらに,地球内部にはLAB以外にも,プレート成長や地球進化,物性変化を反映した多様な不連続面が存在します.これらの境界で生じる地震波の変換波を反映するレシーバ関数解析を高密度観測網のデータに適用し,不連続面の空間分布を推定しています.地震波トモグラフィーと併せて解析することで,現在の地球内部構造とその進化過程の解明に向けた研究を進めています.
図1:豪州大陸下のLAB(グレーの面)と観測点下のリソスフェア内不連続面(赤・青・緑の点)
図2:ベイズ推定による地球内部の不連続面の検出主な参考文献:
- Tarumi, K. and Yoshizawa, K. (2025), Detecting rapid lateral changes of upper mantle discontinuities using azimuth-dependent P-wave receiver functions and multimode surface waves, Phys. Earth Planet. Inter., 107468. 10.1016/j.pepi.2025.107468
- Taira, T. and Yoshizawa, K. (2020), Upper mantle discontinuities beneath Australia from transdimensional Bayesian inversions using multi-mode surface waves and receiver functions, Geophys. J. Int., 223, 2085-2100 doi:10.1093/gji/ggaa442
- Yoshizawa, K. and Kennett, B.L.N. (2015), The lithosphere-asthenosphere transition and radial anisotropy beneath the Australian continent, Geophys. Res. Lett., 42, 3839-3846, 10.1002/2015GL063845.
- プレスリリース:オントンジャワ海台の成因
大陸の移動・進化とプレートテクトニクス
プレート運動により,海嶺で生成された海洋プレートは約2億年以内に海溝から地球内部へ沈み込み,地球表面から姿を消します.一方,大陸の中心を成すクラトンは,数十億年にわたり離合集散を繰り返しながら地球表層に存在し,地球進化の歴史を今に伝えています.当研究室では,急速に移動するオーストラリア大陸や,高密度観測網で覆われた北米大陸,インドとの衝突により大変形を受けたユーラシア大陸など世界の大陸域を対象に,多数の地震観測記録と独自の解析手法を用いて,大陸下の3次元構造を明らかにし,地球および大陸の進化過程の解明に取り組んでいます.
図:豪州大陸の3次元S波速度モデルと断面図(上:S波速度,下:鉛直異方性)主な参考文献:
- Yoshida, M., and Yoshizawa, K. (2021), Continental Drift with Deep Cratonic Roots, Ann. Rev. Earth Planet. Sci., 49, 117-139. 10.1146/annurev-earth-091620-113028
- Kennett, B.L.N, Yoshizawa, K. and Furumura, T. (2017), Interactions of multi-scale heterogeneity in the lithosphere: Australia, Tectonophys., 717, 193-213, 10.1016/j.tecto.2017.07.009
- 吉澤 和範 (2018), 大陸マントル, 地球科学の事典(7章7.8), 170-171, 朝倉書店.
日本列島と周辺域の3次元構造と異方性
日本列島には高密度な地震観測網が整備されており,実体波走時を用いた高分解能な地震波トモグラフィー研究が進められてきました.しかし,日本海やオホーツク海など,観測点の乏しい海域では,実体波のみで構造を復元することは困難です.当研究室では,独自の表面波解析手法を用いて,列島内と大陸内の観測点間を伝わる表面波の観測情報を用いて,縁海下の3次元構造推定の研究を進めています.これまでに,日本海下の厚さ約60km程度の高速度異常や,また東北日本直下のマントルウェッジ内の顕著な異方性(SH>SV)などが確認されています.
図:日本列島及び周辺域の3次元S波速度構造と異方性 主な参考文献:
- Yoshizawa, K., K. Miyake, and K. Yomogida (2010), 3D upper mantle structure beneath Japan and its surrounding region from inter-station dispersion measurements of surface waves, Phys. Earth Planet. Inter., 183, 4–19. 10.1016/j.pepi.2010.02.012
2. 震源研究:巨大地震〜微小破壊
バックプロジェクション解析による震源破壊域のイメージング
大規模な地震では,断層破壊に伴って発生した地震波が世界中の観測網で記録されます.これら遠地で観測された地震波形を,波の発生源へ戻して解析する手法をバックプロジェクション(BP)解析と呼びます.本手法を大地震の観測記録に適用することで,複雑な断層破壊過程を詳細にイメージングすることが可能です.図は2024年能登半島地震を例とした結果で,P波を放射した領域が推定断層の破壊域に対応する様子や,破壊の進行に伴う地震波周波数の変化等を示しています.
図:2024年能登半島地震でのP波放射源主な参考文献:
- Tarumi, K. and Yoshizawa, K. (2025), Frequency-dependent seismic radiation process of the 2024 Noto Peninsula earthquake from teleseismic P-wave back-projection, Earth Planet. Sci. Lett., 666, 119509. 10.1016/j.epsl.2025.119509
- プレスリリース:2024年能登半島地震の地震波放射過程を可視化
超微小繰り返し地震の研究
大地震が多発するプレート境界においては,プレート境界の「ひっかかった部分」で,繰り返し地震が発生することが知られています.これはプレート境界面の挙動をモニターするために非常に有用な現象です.我々は.金の採掘による力のバランスの変化で誘発地震が多発する南アフリカ金鉱山でも,既存の断層上で類似の現象が起こっていることを発見しました.このような現象が断層で起こるより大きな地震とどう関連しているのか,それらの特徴の規模依存性が大地震の発生過程をどう支配しているのか,という点に着目して研究を進めています.
図:鉱山内の断層で多発する超微小繰り返し地震主な参考文献:
- Yamaguchi, J., Naoi, M., Nakatani, M., et al. (2018), Emergence and disappearance of very small repeating earthquakes on a geological fault in a gold mine in south africa, Tectonophysics, 747–748, 318–326. 10.1016/j.tecto.2018.10.014 (Corresponding Author: M. Naoi).
- Naoi, M., Nakatani, M., Igarashi, T., et al. (2015), Unexpectedly frequent occurrence of very small repeating earthquakes (–5.1 ≤ MW ≤ –3.6) in a South African gold mine: implications for monitoring intraplate faults, J. Geophys. Res., 120, 8478–8493. 10.1002/2015JB012447.
- 直井誠(2018),南アフリカ大深度金鉱山での微小破壊観測による震源の物理の研究,地震第2輯,第71巻5月号,pp.43-62. 10.4294/zisin.2017-13
超巨大地震の多様性
2011年3月11日のM9.0東北地方太平洋沖地震は,日本周辺で観測史上最大の地震であり,巨大な津波被害をもたらしました.太平洋プレートの沈み込みにより蓄積した歪みが解放され,震源近くの限られた断層域で非常に大きなすべりが生じた点が特徴です.この発生様式は,海溝沿いに広がる従来の超巨大地震とは異なり,2列のセグメントの連動が本質であることが示されました.この地震は,超巨大地震の多様性を明らかにし,将来の発生域評価に重要な知見を与えます.

主な参考文献:
- Yomogida, K., K. Yoshizawa, J. Koyama, and M. Tsuzuki (2011), Along-dip segmentation of the 2011 off the Pacific coast of Tohoku Earthquake and comparison with other megathrust earthquakes, Earth Planets Space, 63, 697-701. 10.5047/eps.2011.06.003
- Koyama, J., Yoshizawa, K., Yomogida, K. and Tsuzuki, M. (2012), Variability of Megathrust Earthquakes in the World Revealed by the 2011 Tohoku-oki Earthquake, Earth Planets Space, 64, 1189-1198. 10.5047/eps.2012.04.011
- 小山順二,都筑基博,蓬田清,吉澤和範 (2013), 2011年東北沖巨大地震が明らかにした超巨大地震の多様性,北海道大学地球物理学研究報告, 76, 129-146. 10.14943/gbhu.76.129
3. 地震波の理論と解析
地震波解析手法の開発と応用
地震波には,発生源である震源の情報に加え,観測点までの伝播経路における地球内部構造の影響が含まれています.これらの情報を正しく抽出するためには,観測された地震波形に対する適切な解析が不可欠です.特に,実際の地震波形には,高次モードなど複数の波群が重なって到達する場合があります.当研究室では,様々な地震波形を用いて地球構造や震源過程を明らかにするため,一観測点での非線形解析法や,多数の観測点を用いたアレイ解析法など,独自の解析手法の開発と応用を進めています.
図1:単一波形での非線形波形解析によるマルチモード位相速度の計測
図2:アレイ解析によるラブ波高次モードの分散曲線計測主な参考文献:
- Matsuzawa, H., and Yoshizawa, K. (2019), Array-based analysis of multi-mode surface waves: Application to phase speed measurements and modal waveform decomposition, Geophys. J. Int., 218, doi.org/10.1093/gji/ggz153
- Hamada, K. and Yoshizawa, K. (2015), Interstation phase speed and amplitude measurements of surface waves with nonlinear waveform fitting: Application to USArray, Geophys. J. Int., 202, 1463-1482, doi:10.1093/gji/ggv213
- Yoshizawa, K. and Ekström, G. (2010), Automated multi-mode phase speed measurements for high-resolution regional-scale tomography: Application to North America, Geophys. J. Int., 183, 1538-1558. 10.1111/j.1365-246x.2010.04814.x
AIなどの情報処理技術の地震データ解析への応用
近年急速に発展しているAIを始めとした技術は,地震データ解析にも活用が進められています.当研究室では,地震波の到達時刻を高速に精度よく読みとる深層学習モデルの開発や,地震の検出に非常に有用だが計算負荷が大きく大規模適用が難しい類似波形探索技術の効率化など,地震活動を詳しく調べるために必要な,効率よく多くの地震を検出・震源決定するための技術開発に取り組んでいます.
図 2023年12月31日の日本全国の基盤観測データから決定した震源分布.主な参考文献:
- Naoi, M., K. Tamaribuchi, K. Shimojo, S. Katoh, S. Ohyanagi (2024), Neural phase picker trained on the Japan Meteorological Agency unified earthquake catalog, Earth Planet Space, 76, 150, 10.1186/s40623-024-02091-8
- Kubo, H., Naoi, M., Kano, M. (2024), Recent Advances in Earthquake Seismology using Machine Learning, Earth Planet Space, 76(1), Article 36. 10.1186/s40623-024-01982-0 (2024 Earth, Planets and Space, Highlighted papers)
- Naoi, M. and Hirano, S. (2024), Efficient similar waveform search using short binary code obtained by deep hashing technique, Geophys. J. Int., 237, 604–621, doi:10.1093/gji/ggae061.
地震観測点の異常検知
地震観測点に設置された地震計の水平成分(N成分)は通常,真北を向いていますが,稀に設置方位が大きくずれている場合があります.正確な地震波解析を行うためには,各観測点における地震計の設置方位を把握することが重要です.当研究では,位置が既知の多数の地震から到来するP波やレイリー波の入射方向を解析し,観測点ごとの設置方位の平均的なずれを推定することで,地震観測点の異常検知も行っています.
図:豪州の定常観測点に対して推定された水平成分の方位角(北からのずれ).主な参考文献:
- Tarumi, K. and Yoshizawa, K. (2025), Station-orientation catalog for Australian broadband seismic stations, Pure Appl. Geophys., 10.1007/s00024-025-03827-7
- Yoshizawa, K., Yomogida, K., and Tsuboi, S. (1999). Resolving power of surface wave polarization data for higher-order heterogeneities. Geophysical Journal International, 138(1), 205–220. 10.1046/j.1365-246x.1999.00861.x
波動理論に基づくトモグラフィー手法
多数の観測データを用いる地震波トモグラフィーでは,地震波の伝播経路を波線で近似する手法が一般的に用いられています.しかし,実際の地震波は有限の波長を持つため,幾何学的な波線近似には理論的な限界があります.この波長の有限性は,フレネルゾーンを考慮することで表現することができます.当研究室では,現実の波動場の特性をトモグラフィー解析に効率よく取り入れるため,波動理論に基づく独自に開発した解析手法の開発とその応用を進めています.
図1:有限波長理論に基づく地震表面波の空間感度分布主な参考文献:
- Yoshizawa, K. and Kennett B.L.N. (2005), Sensitivity kernels for finite-frequency surface waves, Geophys. J. Int., 162, 910-926.10.1111/j.1365-246x.2005.02707.x
- Yoshizawa, K. and Kennett, B.L.N. (2002), Determination of the influence zone for surface wave paths, Geophys. J. Int., 149, 440-453. 10.1046/j.1365-246x.2002.01659.x
- 吉澤 和範 (2005), 表面波インバージョンによる上部マントル内部の推定:幾何学的波線から有限幅波線への発展, 地震, 57, 393-408.10.4294/zisin1948.57.3_393
4. 様々な振動・破壊現象
火山噴火の地震学的解析
大規模な火山噴火では,遠方まで伝わる地震波や,大気中を伝播する空振が発生します.これらの地震波や空振を解析することで,噴火のメカニズムや発生時刻歴,相対的な爆発規模を推定することができます.特に巨大噴火の際には,大気と固体の共振現象が生じる場合もあります.当研究室では,世界各地で記録された地震波データを用い,火山噴火やその他の爆発性震源に関する地震学的研究を行っています.
図(a):2022年トンガ噴火の主要な爆発的噴火のバックプロジェクション(BP)イメージ
図(b):(a)で得られた噴火の時間推移.主な参考文献:
- Tarumi, K. and Yoshizawa, K. (2023), Eruption sequence of the 2022 Hunga Tonga-Hunga Ha'apai explosion from back-projection of teleseismic P waves, Earth Planet. Sci. Lett., 602, 117966. 10.1016/j.epsl.2022.117966
- Nakashima, Y., Heki, K., Takeo, A., Cahyadi, M.N., Aditiya A. and Yoshizawa, K. (2016), Atmospheric resonance oscillations by the 2014 eruption of the Kelud volcano, Indonesia, observed with the ionospheric total electron contents and seismic signals, Earth Planet. Sci. Lett., 434, 112-116, doi:10.1016/j.epsl.2015.11.029.10.1016/j.epsl.2015.11.029
- プレスリリース:2022年トンガ噴火の時間推移の推定
AI技術を活用した微小破壊データの解析
AI技術は実験室,あるいは数百メートル程度の範囲を対象にするような規模で行われる微小破壊観測データの処理にも活用できます.我々は,AI技術を用いて室内岩石実験のデータの処理を行うことで,従来の方法よりも1桁多い微小破壊の震源を決定し,従来より遥かに詳細に破壊の成長を観察することに成功しました.当研究室ではこのような技術の開発と適用を進めています.
図 頁岩供試体を用いた水圧破砕実験で得られたAE震源分主な参考文献:
- Naoi, M., Hirano, S. and Chen, Y. (2025), High-resolution monitoring of hydraulically induced acoustic emission activities using neural phase picking and matched filter analysis, Prog. Earth Planet. Sci., 12:24. https://doi.org/10.1186/s40645-025-00696-5
- Tanaka, R., Naoi, M., Chen, Y., et al. (2021), Preparatory acoustic emission activity of hydraulic fracture in granite with various viscous fluids revealed by deep learning technique, Geophys. J. Int., 226, 493–510. 10.1093/gji/ggab096 (Corresponding Author, M. Naoi).
AEセンサで計測された微小破壊データの高度利用
室内実験等や現場スケールではAcoustic Emission(AE)センサと呼ばれる,地震計とは異なる機材で微小破壊が測定されます.AEセンサは感度が高く,小さい信号を検出できるのですが,特性が複雑で高度な解析が難しいという問題があります.このようなセンサを用いて波形を用いた高度な解析を行うための技術開発と,観察される微小破壊活動から地震や岩石破壊現象を理解するという研究を行っています. 例えば,図の例では,室内実験中に生じた多数の微小破壊の破壊方位やモード推定を行い,破壊の成長過程監視のための情報を取得しています.
図 左)室内水圧破砕実験で生じた亀裂と破壊時に生じた微小破壊の震源位置.右)波形解析で明らかになった個々の微小破壊の開口方向.主な参考文献:
- Naoi, M., Imakita, K., Chen, Y. et al. (2022), Source parameter estimation of acoustic emissions induced by hydraulic fracturing in the laboratory, Geophys. J. Int, 231, 408–425. 10.1093/gji/ggac202
- Naoi, M., Chen, Y., Yamamoto, K. et al. (2020) Tensile dominant fractures observed in hydraulic fracturing laboratory experiment using eagle ford shale, Geophys. J. Int., 222, 769–780. 10.1093/gji/ggaa183










